――写真を撮り始めたのは?
中高生のときの趣味が中世城郭の史跡を見ることだったんです。城といっても天守閣じゃない。鎌倉時代から戦国時代に山や川を利用して要塞にした武士の館です。機種は覚えてませんがオリンパスの35ミリを親から借りて近所の山に登り、そんな中世城郭を撮っていました。そうしてリポートみたいにまとめて。でも発表するんじゃなく、自分で読んで楽しんでいたんです。
――自分のカメラは?
最初はポケットカメラです。フィルムがカートリッジ式(110)のやつがありましたよね。大学の落研のとき、テレビの視聴者参加番組に出て景品でもらったのかな。しばらく使っていました。春風亭柳昇師匠に入門しましたが、前座のころは貧乏で自分の時間もないし撮影なんてできなかった。二ツ目に昇進して改めて撮り始めたんです。新システムというASPカメラを買いました。仕事で地方に行ったときに仲間を撮ったり、自分を撮ってもらったりしていました。
真打ちになってから、講釈師の神田山陽と一緒に旅に行って撮った二、三十枚のスライドを投影しながら2時間ぐらいしゃべるという旅ライブ講演を始めたんです。そうするといいカメラがほしくなり、買ったのがコンタックスT2。インタビューとかでカメラマンの方にコンパクトは何がいいかって尋ねると、当時出たばかりということもあってT2だと。デザインも好みだったし、買って写してみたらやっぱりよかった。シャープ過ぎないというか、景色が軟らかく写る。
――それからクラシックカメラに嗜好(しゅこう)が移りますね
古いカメラって描写が軟らかい感じがしていいんです。それに形がきれい。ビトーBはすごくかわくて、7年前に購入しました。巻上げレバーなんかチープですけど、ぼく、チープなものが好きなんですよ(笑)。レンズはフォクトレンダーだから仕上がりがいい。それでT2とビトーBを使い分けるというか、使い続けています。
――そしてボルシーC
知り合いの家で二眼のカメラを見せてもらったんですが、上からのぞくと映像がすごくきれいじゃないですか。これはいいと思ったんだけど、二眼レフだとフィルムサイズが大きくなるから大変だなと迷っていたら、二眼でも35ミリがあるよと。それで探したのがボルシーC。購入したのはビトーBの1年後くらいかな。本体上部を開いてピントグラスをのぞいているだけで、すごく楽しいんです。何でもきれいに見える。現像された写真を見るより、ピントグラスからいろいろなものをのぞいているほうが気持ちいいんです。ピントは接眼部で合わせて、わざわざ上からピントグラスをのぞいて撮っています(笑)。大人のおもちゃとしては最高ですね。散歩のときに持っていきます。あとは酔っぱらったときに部屋の中をのぞいたりしている。(笑)
――新作落語の資料として撮ることはありますか
ないですね。とくにクラシックカメラを持っている時間は完全にオフが感じられます。落語家って、仕事と遊びの時間の区切りがつけづらいんですよ。ただクラシックカメラを持ったときは、なんとく今日は休みだなという気になるんです。デジカメだと、撮らなきゃって気持ちで何か面白いことないかなとキョロキョロ探します。だけど、ビトーやボルシーを持っているときは別に撮らなくてもいいやみたいな気持ちになり、それが楽しいんです。
※このインタビューは「アサヒカメラ 2007年2月号」に掲載されたものです