
佐藤厚志さんは作家、金菱清さんは社会学者として、宮城県仙台市で東日本大震災の激震を経験した。「災厄」に見舞われた人々と時間を共にし、被災地の変化を目の当たりにしてきた二人が語り合った。
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金菱清さん(以下、金菱):佐藤さんとは初対面と思っていたら、仙台の出版社「荒蝦夷(あらえみし)」代表の土方正志さん主催の新年会でお会いしていましたね。2019年頃でしょうか。
佐藤厚志さん(以下、佐藤):地元の出版関係者や記者さんが集まる会でした。大勢だったので、金菱さんとお話はできませんでしたが。
金菱:あの頃、すでに小説を書かれていたんですよね。
佐藤:25歳から小説を書き始め、2017年にデビューしました。新年会のときは、出版社から催促されていた2作目が書けず、苦しんでいたので、あまり人前に出たくない心境でした(笑)。
金菱:東北学院大学の英文学科で学んでいたときは、植松靖夫先生のゼミ生だったそうですね。私が東北学院大学の教授だった頃、植松先生にゼミの授業内容を聞いたら、イギリス文学をかなり緻密に読み込むという話をされていました。
佐藤:植松ゼミでは、定番の小説だけでなく、怪奇小説なども推薦図書のリストに入っていました。初めてイギリス文学に触れる大学生が読んでも楽しめる本が多かったです。私の興味の方向性は植松ゼミで根本を作ってもらった気がします。
金菱:佐藤さんは東日本大震災をどこで経験されたのでしょうか。
佐藤:当時は、今と同じ仙台駅前にある丸善仙台アエル店で働いていました。3月11日は休みだったので自宅にいたら、激しい揺れに襲われて。揺れが収まったら、電話も電気も使えない。何が起きているのかわからない。家族や親しい人の安否を確認してから、職場に駆けつけました。自宅から近かったので、まずは同僚がいる職場に行ってみた、という感じです。
金菱:『象の皮膚』に書かれていた書店の様子は、佐藤さんの体験が元になっているんですね。