昨年8月にシリアで銃撃された女性ジャーナリスト山本美香さんは、2008年から毎年2、3回、早稲田大学大学院政治学研究科で「なぜ戦争を取材するのか」をテーマに講義をしてきた。本書は彼女の遺志を若い人に引き継ごうと、死の約3カ月前に同研究科と政治経済学部で話した内容をまとめたものだ。
03年、イラク戦争の開戦時。日本の大手メディアがバグダッドから退避する中、フリージャーナリストとして残った経験をもとに、山本さんは現場で取材することの必要性を論じる。「救助するか、撮影するか」。バグダッドのホテルで米軍戦車の砲撃を受け、隣室のロイター通信のスタッフが死傷した際の体験を振り返り、現場でどう行動するべきかを自問している。
学生たちと交わした議論からは、戦場で苦しむ人々に向き合ってきた、芯が強くて優しい山本さんの真摯な姿が甦ってくる。「伝え、報道することで社会を変えることができる、私はそれを信じています」。人として記者として、私たちは何ができるのかについて考えるためのヒントがあふれている。
※週刊朝日 2013年8月2日号