『起業家』はサイバーエージェントの社長のエッセイである。サイバーエージェントというのはIT関連企業で、ひところは楽天やライブドアなどといっしょに話題になることが多かった。社長の藤田晋は26歳のときに東証マザーズに上場して、史上最年少だと騒がれた。六本木ヒルズに住んで、ヒルズ族なんて呼ばれていたこともあった。
だが、同じヒルズ族でも堀江貴文や三木谷浩史がしばしば悪役っぽいイメージで語られるのに対して、藤田晋はそうでもない。派手なことを言ったりやったりしないからか。一時、きれいな女優と結婚していたけれども。
本書を読んで、藤田晋が世間からあまり嫌われない理由がわかった。ギラギラしていないのである。物欲も性欲も、金銭欲さえなさそう。なんで会社やってんだか。
この本には、藤田が会社を作ってから現在に至るまでの栄光と挫折と復活が書かれている。ぼくが連想したのは「日経新聞」の連載「私の履歴書」(財界人はじめ有名人の回顧録)だ。
たとえば藤田は、ブログこそが会社の基幹事業になるはずだと信じて社員に号令をかけるのだが、幹部社員も株主たちもそっぽを向く。2年で黒字化できなきゃ社長を辞めるとまで藤田はいうのに、誰も引き留めない(ダチョウ倶楽部か)。ブログを見る人を増やすために悪戦苦闘する姿は、一般製造業の新商品開発と似ている。なんだか昔あったドキュメンタリー番組、「プロジェクトX~挑戦者たち~」みたい。
その藤田の自信作、アメーバブログ、通称アメブロを覗いてみた。芸能人のブログがたくさんあって、なるほど女性週刊誌が売れなくなるはずだ。もっとも、テレビから遠く離れて10年のぼくは、ランキング上位に名前を知っている芸能人がひとりしかいない(市川海老蔵、第6位)。しかし、よく見ると政治家のブログも多いではないか。ネット選挙解禁でこの会社が儲かるのは間違いない!
週刊朝日 2013年5月17日号