医者は殺人者といわんばかりのどぎついタイトル。読者を引き寄せるためとはいえ少々やりすぎでは、と眉をひそめて著者名を見れば近藤誠……俄然、興味がましてくる。
 医者として40年のキャリアをもつ近藤は、慶應義塾大学医学部放射線科の講師でありながら、「がんは切らずに放置したほうがいい」とか「抗がん剤は効かない」といった文章を発表しつづけてきた。多くの同業者を敵にまわした論争も何度となく起きたが、具体的なデータをもって反論する近藤の主張は、じわじわと患者たちの信頼を集めていった。たとえば、近藤の話を聞いた乳がん患者が選択することで広まった「乳房温存療法」は、その代表的な成果だ。
 自分が身を置く業界内から嫌われ煙たがられても、あくまでも患者の立場で発言してきた近藤であれば、「医者に殺されない」といった過激なアプローチも説得力をもつのだろう。そもそも日本人は、年間で先進国平均の2倍以上も病院へ行く〈世界一の医者好き国民〉なのだから、このタイトルは誰しも他人事でない。しかも、超高齢社会の影響もあって医療費が増加の一途とくれば、サブタイトルにある「医療と薬を遠ざけて、元気に、長生きする方法」は、無視できない魅力を放つ。
 著者のこれまでの活動実績をフル活用したタイトルワークに応えるよう、内容も具体的なアドバイスで構成されている。その一部、〈【心得8】「早期発見」は、実はラッキーではない〉〈【心得12】一度に3種類以上の薬を出す医者を信用するな〉は帯でも紹介され、多くの日本人が思いあたる体験の盲点を突いてみせる。その上で、タイトルと同じ大きさで印刷されたコピーがたたみこむ。
〈病院に行く前に、かならず読んでください。〉
 近藤がこれまで訴えてきた主張がコンパクトに、手際のいい編集でわかりやすくまとめられたこの本。ミリオンセラーもそう遠くはないと、私は予測する。

週刊朝日 2013年4月19日号