テレビのバラエティ番組はあまり見ないが、『アメトーーク!』(テレビ朝日系列)は毎週、楽しみにしている。司会は雨上がり決死隊。珍妙なテーマ、たとえば「運動神経悪い芸人」といったくくりで集まった芸人たちの体験談や検証映像が繰りひろげられ、視聴者は爆笑しながらテーマの面白さに引きこまれる。芸人の隠れた魅力を引き出す斬り口は反響を呼び、「家電芸人」などいくつかのブームも起こしてきた。
 この番組を仕掛けたプロデューサー、加地倫三が自分の仕事術をまとめた『たくらむ技術』には、タイトルどおり企みに関するこだわりがたっぷり紹介されている。
 企画は自分の中にしかない、見ている人の立場に立つ、文句や悪口にこそヒントがある、マジメと迷走は紙一重、企画書を通すにはコツがある、常識がないと「面白さ」は作れない……体験に裏打ちされた加地の教訓にはどれも説得力があるのだが、これだけを見ると、昔から各分野の成功者が著してきたビジネス書とよく似ている。いつの時代も、売れるビジネス書は旬の人物が語る成功の秘訣と相場が決まっているから、無理もない。
 加地本人も、「今が自分のバブル期」と自覚してこの本を出したとあった。「分析屋」と自称するだけあって、加地は自分を取りまく状況も冷静に客観視している。そんな客観力に富んだ加地が、〈「何が面白いか」が分からないことには、せっかくの素材を面白く見せることができません〉と説いていた。何が面白いかわからない者にそもそも面白いものは作れないから、わかっている者たちが、〈どういう順番〉で〈どういうふうに見せれば〉面白さが伝わるか徹底的に分析、工夫してようやく企みは実現していくのだ。
 そうやって十年間も『アメトーーク!』をつづけてきた加地の仕事術。曖昧な「面白さ」の可視化と格闘してきたそのノウハウは、どこまで応用できるかはともかく、異業種で企むビジネスマンにもきっと参考になるだろう。

週刊朝日 2013年4月5日号