広告やブックデザインなど、広いジャンルで活躍する人気アートディレクターが、絵と言葉が伝えるものは何か、「わかりやすさ」とは何かを興味深く語っている。
 絵で情報を伝えることは情報をそのまま絵にすることではない。「リンゴ」という言葉をただリンゴの絵にしても、文字で書くのと変わらない。一口かじられたリンゴにすると人の気配が現れる。そのそばに女性が倒れていると、怪しげな空気が生じる。自分の仕事は絵と言葉が作り出す、この奇妙な空気や響きを扱うことだという。
 しかし、絵があれば物事はわかりやすいかといえば、それはちがうとも述べている。そもそも「わかる」とはどういうことか。私たちがうまく説明できない、ぼやっとした部分を、著者は仕事でぶつかったさまざまなできごとや身近な例えに置き換えながら、ごくシンプルな言葉で核心をぽんと取り出してみせる。そのたびにあっと目の前が開けるような、爽快な衝撃が訪れる。
 後半には書評も収録。書評というより、本をめぐる著者の人生があちこちににじみ出た、奥行きあるエッセーなのがいい。

週刊朝日 2013年3月8日号

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