何がいいのか正しいのか、迷うことの多い今日このごろ、「である」と断言してくれる人に出会うとほっとする。だからぼくは西内啓『統計学が最強の学問である』を手に取った。表紙には「データ社会を生きぬくための武器と教養」との手書き文字がある。あまり上手くない脱力系。「最強」「学問」の力強さとのアンバランスがいい。タイトルとデザインの勝利だ。
内容はよくできた統計学の入門書である。この本を読んだからといって、すぐデータ分析できるわけではないから、入門書というより入門の入門。統計学的な考え方を教えてくれる。
そういえば、ビッグデータの時代なのだと誰かがいっていた。コンピュータとインターネットによって、大量のデータを集め、分析することが可能になった。ぼくらは検索したりメールしたりして、せっせとデータを提供している。プロバイダや通信会社に料金を払ったうえデータ提供までしているのだから、盗人に追い銭という気もしないではないが。
しかし、いくら大量のデータがあっても、その分析のしかた、読みかた、つかいかたがわからなければ何の意味もない。逆に、適切な扱い方さえわかっていれば、データの量は少しでもいい。全員に聞かなくても、適切にサンプリングした人々だけに聞けば、全体のことはだいたいわかる。重要なのはデータを見るセンスだ。
よくアドバイザーやらコンサルタントやらが、アンケート調査のデータをもとに「ですから御社では~」などとプレゼンする。もっともらしいスライドを見せて。でも、それが本当に意味のあるものかどうか、本書をよく読んで判断したほうがいいだろう。世の中には、下らない出費の正当化のために行われる下らないアンケートが多すぎる。
統計学が最強かどうかは知らないけれど、統計学を知らずして天下国家を語るなかれ、という気分にはなるね。
週刊朝日 2013年3月1日号