先月、81歳で逝去した直木賞作家のエッセイ集。昔なつかしい喫茶店や場末を好む著者が、およそ10年にわたる、老いとつきあう、のどかだが忘れ難い日々を描いた。 荒川沿いの団地に住んでいたころ、通う喫茶店があり、扉の下から桜の花びらがまぎれこんでいた。先のラブホテルの前の桜を風が散らしていたのだ。当時、都心に借りていた仕事場の前にも桜並木があり、着物姿で見あげていた老女の営む喫茶店に出入りした。そ…

続きを読む