「若い頃だったら、引き受けなかったかもしれませんね。特に20代の前半はかなり人の目を意識していて、何か大きなお仕事の話をいただいても警戒して断っていました。それが、ある程度の年齢を重ねてみると、流れに身を委ねることの心地よさを覚えたというか(笑)。『なるようになるでしょ』って感じで、見切り発車で踏み切ったりもするようになった。お声がけしてもらったものは、とりあえずやって、後悔するパターンです。どこかで開き直れるようになったというか……」

 新しいことに挑戦するときの自分の葛藤について、そんなふうに話した後、「昔は人を信用できなかったから」とドキッとする一言をさりげなくつぶやく。

「どこかで人を信用できなくなっている自分も影響して、『なんでこの人は私に仕事持ってくるんだろう?』とか、いちいち疑心暗鬼になって。今思うと、逃したチャンスもたくさんあります(笑)。今はその反省も踏まえ、仕事の内容以前に、誰とやるか、どんな経緯で持ってきてくれた話か、みたいな部分をより重視するようになりましたね。『仕事の内容はわからなくても、この話を私に振ってきているこの人の熱意がすごいからやってみよう』というふうに」

(菊地陽子 構成/長沢明)

※記事後編>>「本谷有希子が育児を諦め創作を選んだ理由『お母さん状態でここにはいられない』」はコチラ

週刊朝日  2023年3月17日号