第二次世界大戦前夜、ナチズムは国民に厳しい統制を敷いたことで知られる。民族繁栄のため「産めよ殖やせよ」を掲げ、性生活に対しても介入したが、保守的な道徳観を強制的に押し付けたわけではない。不倫や婚前交渉も容認する意外な一面を持ち合わせていた。
 本書で参照している当時の新聞や雑誌などからはナチス幹部の性に対する建前と本音の乖離の大きさがうかがえる。「性」の容認は出生奨励策と同時に抑圧された状態に置かれた人々のガス抜きの手段として位置づけられた。性行為だけでなく、ヌード雑誌や進歩的な性教育にもナチスは寛容な姿勢を見せたことからもそれは明白だ。性愛という人間の根源的な欲望を利用したことがナチズムという非人間的な体制を可能にしたのだ。
 興味深いのはナチズム遂行の動員装置として性愛は作用したが、想定以上の風紀の乱れなど望ましくない現象を数多くもたらしたことだ。思惑通りに統治が進まない中でナチスがどう舵取りしたかという視点で読めば従来と異なるナチズム像がより鮮明になる。

週刊朝日 2012年11月16日号

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