写真家で、エッセイ・紀行文作家でもある著者が、40代の今まで持っていなかった車の免許を取ろうと思いたつ。愛をなくし、人間関係に行き詰まって、何か新しいことに挑戦したくなったのだ。合宿免許を探すことになり、年齢制限でつまずいたりしながら見つけたのが、海の真ん前にあって、なんと乗馬体験もできるという、長崎県五島列島は福江島の「ごとう自動車学校」だった。
 免許取得までの涙あり笑いありの道のりは多くの人にとって身に覚えがあることだろう。そこへさらに五島という土地と住民たちの魅力が加わり、軽快な筆致に引きこまれる。大半は趣味が魚釣りという教官陣、それぞれの事情を抱えた若い教習生たち……。著者は運転をめぐって教官と丁々発止のやりとりを交わし、若者たちにさりげなく歩み寄る。
 教習がうまくいかないときは、併設の馬場で厩舎の仕事を手伝い、学校を飛び出していろんな人と話し、島の日常に触れる。旅先での出会いを書いてきた著者らしく、活き活きした人々の姿が印象に残る一冊。

週刊朝日 2012年11月16日号

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