「『結婚できてないじゃん』と言われたという話は、娘が手紙を書いたときに初めて知りました。お友だちは何の気なしに言ったのだと思いますが、娘は私にそれを言うのが申し訳ないと思ったのか涙ぐんでいた。私たちが結婚できない状況を悲しいと思っているんですね」
じつはクミさんとパートナーには、同性婚ができないと困る人一倍切実な理由がある。パートナーはカナダ人で、クミさんと婚姻できないと配偶者ビザを取得することができないのだ。
「特にコロナの時期は大変でした。いったん出国すれば入国できなくなり、子どもたちと離れ離れに暮らさなければならなくなる。そのためパートナーは、カナダで暮らす親の死に目に会えませんでした」
なお、クミさん一家も前出のaiさんたちの家族と同様、同性カップルで子育てしていることを近隣に公表して暮らしている。周囲の子どもたちからは「お母さんふたり、いいな!」とうらやまれるほど地域になじんでいるため、日常生活で困ることは特にないという。
「みんなにっこりしますよ」と書いた理由をその子に尋ねると、「『結婚できたらいいね』って私が言ったら、お母さんがニコニコしてたから」と答えてくれた。親が笑顔になることは、子どもの世界が満たされることを意味する。
■既にそこにいる人たち
ゲイの父親をもつ50代の女性にも岸田首相に伝えたいことを聞いた。女性はシングルマザーで子どもが小さかった頃、父親と男性パートナーにたくさん育児を助けてもらったという。
「LGBTQの人たちは急に現れたわけではありません。うちの父も生まれてから80年以上、この社会でつつましく暮らしている。得体(えたい)が知れないように感じる人もいるかもしれませんが、既にそこにいる人たちなので恐れることはない。当事者に合った行政サービスや制度を設けることが大事です」
女性はユニークなたとえ話もしてくれた。同性婚の法整備をすることは「服のサイズがSとLしかない世界にMサイズをつくるようなもの」というのだ。
「服のサイズがMの人たちは今、パツパツのSを着るか、ダブダブのLを着るしかない。そこで『自分たちに合うサイズの服が欲しい』と主張すると『社会が変わってしまう』などと言われるのですが、MサイズができてもSやLの人の生活は何も変わりません。父たちにとっての同性婚はこれと同じこと。そばにいる者として、早く必要な制度を作ってほしい。そうすると、我々の親たちもにこにこして、気持ちよく過ごせるわけです」
同プロジェクトは現在も続行している。LGBTQ家族の子どもだけでなく、大人やアライも参加可能だ。手紙を書いたら写真をSNSにアップし、岸田首相の国会事務所に郵送を。4月22、23日に東京・代々木で開催される東京レインボープライド会場でも寄せられた手紙の公開を予定している。(ライター・大塚玲子)
※AERA 2023年3月13日号