娘は小学校の合唱団に入っている。週に2回ほど練習があり、会費は年間でなんと1500円という激安ぶりだ。

 娘は歌が好きで、カラオケに行くといつも私よりも高得点を取る。以前はこども向けボイストレーニングのお教室にも通っていた。しかし、発表会があると聞いたとたん、おじけづいてやめてしまった。大勢の人が観ている前で、ひとりで歌を披露するなんてとてもできない! と言うのだ。

 もったいないなあと思っていたので、合唱団に入ってくれてよかった。合唱団は集団で歌うので怖くないというのが入団理由だった。

 4月から始めて半年、合唱団が晴れて発表の日を迎えた。平日の午前中だったが小学校の体育館には大勢の父兄が詰めかけていた。遅れて到着した私は後ろのほうの席にそっと座った。自分で選んだピンクの服を着た娘は、イントロから首を縦に振って元気よくリズムを取っていた。

 美しいハーモニーが満ちているなか、私は娘の表情を注視していた。顔の半分が口になりそうなくらい立派に開けて歌っていた。聴きながら、いろんなことがあったなあと考えた。
 いつももじもじしていて、私の後ろに隠れるようにしている娘は、初対面の人にはろくに挨拶もできないほど緊張してしまう。合唱団の練習メンバーの中にも最初は入っていけず、隅っこのほうでちんまりと様子をうかがっていたという。

 さらに最初の数回の練習が終わった頃には「もうやめたい」とも言い出した。
「いつも同じ曲ばかり歌うんだもん、私、飽きちゃった!」
 合唱なんだから上手にハーモニーできるまでじっくり練習するものなのよ、と説明して通わせると、次第にパートが分かれ、音が重なる面白さを知ったのか、それ以降は文句も言わなくなった。友達も増え、練習を心待ちにするようにさえなった。

 終わってから「素晴らしかったよ!」と娘に声をかけると「良かった。出番の前にうがいをして、ノドを湿らせておいたの」とプロ顔負けの発言まで飛び出した。

 合唱団の人数は結構多く、クラスの女子の半数が所属している。そしてそんな皆の夢は「歌手」。子どものころ合唱団に入っていたプロ歌手のかたは少なからずいるというから、こういうところで夢は育っていくのかもしれない。その影響もあってか、漫画家志望の娘の夢も最近は「漫画家しながら時々歌手をすること」に変わっている。
 

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