私はずっと、日本は右傾化していると思っていた。が、安倍さんの死をきっかけに明らかになる宗教と政治の関係を追いながら、これは右傾化ではなく、日本全体がジェンダーに関してカルト化していたのではないかと思えてきた。

 安倍さんが座長になり2005年に立ち上げられた「過激な性教育・ジェンダーフリー教育実態調査プロジェクトチーム」を思い出す。旧統一教会系のメディアで幾度も露出してきた山谷えり子議員も参加したプロジェクトチームだが、男女共同参画基本計画を徹底的に骨抜きにする勢いがあった。若年層に向けた避妊教育など、命を救う性教育が“寝た子を起こすな”と潰され、 “ジェンダー論”は、男女の調和ではなく対立を引き起こし、家庭をマイナスイメージで捉えるものだと批判されてきた。国際基準のジェンダー平等を真っ向から否定し、フェミニズムが積みかさねてきたものを徹底的に崩そうとした政治主導のバックラッシュの影響は計り知れない。日本のジェンダーギャップ指数が世界最低レベルなのも、他国がジェンダー平等に取り組んできた時間、その反対を行き続けた結果といえるだろう。

 先日、20代の女性と話しているときに、彼女が「私たちは貧乏な世代なので」と枕詞のように何度も言っていた。そしてこんな話をしてくれた。「私たちは貧乏な世代なので、風俗やAVで働くという女性の気持ちがわかります。若いうちにうんと稼いで、老後の資金をためてからやめて、30代は安い時給でつないでいくという生き方もあると思うんです。そういう友だちは一人や二人じゃありません」。それくらい、この国は自己責任を押しつけてくる。福祉は手薄く、未来は暗い。一部のトップは金持ちらしいが、私たちにはお金が回ってくる気配はないし、自分でなんとかするしかない、という気分が徹底しているのだった。

 旧統一教会が、安倍さんの政治家としての主張にどれだけ影響を与えたのか。日本のジェンダー政策にどのような影響を与えたのか。これから検証が必要になるだろう。山上徹也容疑者の手紙には、安倍さんに政治的な恨みがないことが明言されている。ただ、“最も影響力のあるシンパ”として、安倍さんは狙われた。そのことによって、これまで見えなかった、これまでほとんど語られなかったことが少しずつ明らかになりつつある。それは、この国が失ってきたものの大きさを私たちが知る過程になるのかもしれない。

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