企業の法務部門の管理職者が仕事への見方を新たにしたり、弁護士のような専門家が法律について改めて理論的に考え直す場になっていると木村教授は話す。少人数の学生同士の交流で刺激を受け、会社での悩みを相談しあえる。社会人は学びを生かしたいという気持ちが強く知識の吸収も早いという。
「自分が決めたテーマについて納得のいくまで調べ、6万字に及ぶ長文の修士論文を論理的に構成する、という機会はなかなかありません。この経験は思考力を身につけるトレーニングになり、ビジネスの世界でも生きてくるのではないでしょうか」(同)
自分自身で道筋を立てものごとを考えるためにも、大学院という場を活用することを勧めたいと木村教授は語る。
■1年間で修士号を取得してアーキビストの資格もめざす
1年で修士号を取得できるコースを開設する大学院も増えている。ただ通常は2年かかる単位取得と論文執筆を半分の期間でこなさなければならない。
静岡県の私立加藤学園暁秀高等学校で国語を教える山下裕美さん(50歳)は、22年4月から昭和女子大学大学院のアーキビスト養成プログラムで学んでいる。1年間で修士号とアーキビストの資格を得るための知識や技能を取得できるプログラムだ。アーキビストは公文書管理の専門職で、国立公文書館が21年1月に認証を始めた新しい資格だ。
山下さんは隔週で土曜日に静岡県沼津市の自宅から新幹線で東京のキャンパスへ通う。リモートが基本の平日の講義も、時間が許せば大学院に行く。
「先生やほかの学生のみなさんとの交流で得るものがあると思うからです」と山下さんは話す。
アーキビスト関連科目のほか、古文書解読や近世歴史文化を履修している。
「大学の卒論のテーマが樋口一葉で、歴史にも興味がありました。以前から大学院で学び直したいと思っていましたが、入学してみて学部の延長ではなく本格的な研究をする場だと知りました。大学院では自分も研究者の一人で、研究する姿勢や倫理観も問われます」(山下さん)