さらに、背景には日本社会が抱えている問題があると指摘する。
「バブル期以降に社会に出た世代、特に『Z世代』と呼ばれる若者たちは、優秀でがんばっていても昔のように給料は上がりません。『稼ぎたい』『上に立ちたい』という意識の高さやプライドがある一方で、目の前には厳しい現実があります。このままでは……と無力感、切迫感を抱いて焦っている若者は、突然のもうけ話が来ると『来たー!』と、絶好のチャンスが訪れたように思い込みがちになります。ただ、期待に踊っているのは当人だけで、この時点でマインドコントロールが始まっているのです」
マインドコントロールの手法は巧みで、成功するための親切な助言者を装ったり、自分も不安だったがやってみたら成功したという「体験者」を装ったりして、ターゲットの不安を取り除くところから始まる。そして「この新しいビジネスを知らない人は、そりゃ反対したくもなるよね」などと、購入を止める周囲との関係を引き裂いて遮断していく。不安を取り除きながら、「ちょっとずつやってみようよ」などと、言葉巧みに商品を購入させて組織に取り込んでいく。ここからはまさに「あり地獄」である。
■悪徳商法対策の教育が必要
うまくいかなければすべてお前のせいだと罵倒され、「稼げるはずの男」の自尊心を刺激する。勧誘に成功すれば「このシステムは素晴らしいでしょう。がんばれば必ずもうかるから」などと、組織への関与を深めていく。
罵倒されても、「ここまでやったんだからもうちょっと頑張ろう」と、上に立つ“成功者”を追ううちにあり地獄の底に達するのだが、被害者が自覚することはない。
自由な行動を制限され、勤めていた会社をやめてまで勧誘にすべてを注ぐ。この時点でマインドコントロールは完成している。
西田教授はこう警鐘を鳴らす。
「こうした悪徳商法が一切できなくなるような法整備が必要だと思いますが、政治家は積極的ではないように見えます。ならば、社会的な監視を強めると同時に、高校生など早期から悪徳商法についての教育が必要だと思います」
マインドコントロールされた後は、そう簡単には元に戻れない。「もっと稼げるはずだ」「人よりえらくなりたい」などという意識の高さと、現実への不満や不安。その心のすきを悪徳商法の手練れたちが狙っているのだ。(AERA dot.編集部・國府田英之)