試合中に監督が熱中症でダウンするアクシデントに見舞われたのが、2007年の広陵だ。

 3回戦の聖光学院戦、試合が始まって間もなく、40度近い暑さのなか、中井哲之監督が頭痛など熱中症の症状を訴えた。

 大会本部の理学療法士が駆けつけ、氷で冷やすなどの応急治療のあと、中井監督はベンチ裏に下がって安静に努めることになった。

 選手交代以外はほとんど采配を振るうことができない“指揮官不在”の緊急事態のなか、監督に代わって選手たちが自主的にサインを出し合って試合を進めた。

 心をひとつにした広陵ナインは、2回に四球を挟む4連打で3点を先制し、3回にも4連打で3点を加えて、序盤で6対0と大きくリード。

 エース・野村祐輔(現広島)も「自分たちでやってやろうと思った」と7回途中まで3安打無失点に抑えた。

 終わってみれば8対2の快勝に、中井監督は「選手のお蔭。本当によく頑張ってくれた。監督は何もしていない」とナインの健闘に感謝するばかりだった。

 ふだんから自主性を促すため、練習試合で選手にサインを出させていたことが甲子園で生きた形だが、このチームからは野村をはじめ、捕手の小林誠司(現巨人)、内野手の土生翔平(元広島)と上本崇司(現広島)の4人がプロ入り。この顔ぶれなら、監督不在でも安心だった?

 地区予選を勝ち抜き、甲子園出場を決めた直後、監督が突然退任を表明したのが、16年の常葉菊川だ。

 07年春にセンバツ優勝、夏にベスト4、08年夏にも準優勝と甲子園で輝かしい実績を残している同校は、16年も7月27日の静岡大会決勝で袋井に12対0と大勝し、3年ぶり5度目の夏の甲子園出場を決めた。

 ところが、センバツVにもひと役買った森下知幸監督が、翌28日午前の練習中に部員たちを集め、甲子園出発前の31日付での監督退任と高橋利和副部長の新監督就任を伝えたことが波紋を広げる。

「なかなか言えずに申し訳ない。寮生活での体調面もあり、自宅のある(県)東部地区に戻りたかった。高橋監督の下、(甲子園で)暴れてきてほしい」と激励されたナインだったが、動揺は隠せず、涙を流す選手もいた。

暮らしとモノ班 for promotion
「更年期退職」が社会問題に。快適に過ごすためのフェムテックグッズ
次のページ
退任を決意していたが…