NHKでのドラマ化も話題の漫画『大奥』。謎の疫病で若い男性が激減し、徳川将軍の男女が入れ替わる。大奥が舞台の濃密な人間ドラマだ。完結から2年経つ今、作者のよしながふみさんに改めて語ってもらった。
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──過去にもテレビドラマと映画で映像化されてきましたが、放送中のNHK版は、徳川家光の時代から幕末まで、『大奥』全編をドラマ化することも話題になっています。実際にご覧になった感想はいかがでしたか。
漫画をぎゅっと詰めて、ジェットコースターのような展開になっているので、すごい面白いです。視聴者の一人になってテレビの前で「春日局、ひどい」「修羅道! 本当にそう」とか言いながら、楽しんでいます。
脚本家の森下佳子さんが物語を巧みに再構成されていますよね。必要なところはしっかり押さえているから、漫画のセリフや場面の一部が省かれていても、何が起きたか、登場人物がどう感じたのかがよくわかります。
──印象的なシーンは?
たくさんありますが、最初のほうでは、亡くなった父の身代わりにさせられた女性の家光が、万里小路有功(までのこうじありこと)にすがって「わーっ」と泣くところでしょうか。漫画では、泣く前に、家光は憎からず思い始めた有功が思い通りにならないので、春日局に泣きつくんです。
でも、森下さんはその部分をあえて省いたと思います。ドラマの家光は、人生を翻弄される悔しさや淋しさ、哀しさを抱えながら、ずっと誰に対しても感情を出しません。有功に打ち掛けをかけられたときに、初めて感情が一気に決壊して泣くんです。家光のつらさが率直に伝わってきました。漫画とドラマの表現の違いを感じましたし、優れた演技力を持つ俳優さんが演じると、胸に迫るものが、漫画とはまた違いますね。
──ご自身の原作でもそう感じられますか。
そうですね。「漫画は乾いた世界なんだなぁ」と思います。森下さんの脚本もどちらかといえばドライな作風で、セリフの湿度は低めだと思います。でも、そのセリフに生身の俳優さんたちの本物の体温と呼吸が乗ってくると、より説得力が増して伝わってきます。
斉藤由貴さんの春日局は、声を荒らげたりしないのが、かえって恐ろしい。徳川吉宗役の冨永愛さんも、たたずまいが格好良くて、すっと立つと、周りにいる全員がひれ伏したくなる迫力がありました。