■物語のキーは有功の存在
──先生は以前、インタビューで「『大奥』は有功で始まり、有功で終わる」と話されていました。有功は、女将軍の家光を妊娠させるための存在として登場します。愛し合った2人の間に子どもはできず、春日局に引き離されますが、家光は幕府を率いるようになり、有功も大奥総取締として大奥の頂点に君臨します。さらに家光が亡くなったあと、家光の長女、4代将軍・家綱を支え、大奥の男たちを束ねていくのが有功ですね。
大好きな1983年から放送されたドラマ「大奥」(フジテレビ系列)へのオマージュです。ドラマはお江与の方で始まり、瀧山で終わる構成で、どちらも栗原小巻さんが演じていました。最初と最後を象徴する人物を同じ俳優さんが演じるのが面白いと思ったんです。
有功は史実でのお万の方がモデルですが、『大奥』では男女逆転の起点になる重要なキャラクターです。幕末にも天璋院(てんしょういん)か瀧山のどちらかで有功に重なる人物を置こうと、最初から決めていました。
実際に幕末を描き始めたら、瀧山は私が一番、描きやすい、周囲に振り回されて苦労する中間管理職のおじさんみたいな人物。有功とは違います。となると、残るは天璋院。でも、彼に有功を重ねようと思ったら、ぜんぜん似ないんです。有功より明るく開放的な人物なんですね。顔はそっくりに描いてみたんですけど。
結果的には、瀧山と天璋院が掛け合わされて有功という感じでしょうか。
──有功は『大奥』の物語全体に影響する人物でもありますね。でも、途中まで有功を描くのが難しかったとか。
「お万の方はできた人」という通説に沿って有功像をふくらませましたが、途中まで「あまり好きではないなぁ」と思っていました。でも、なかなか子どもができないので、春日局から寝所に入ることを禁じられ、家光に新しい側室が現れたとき、自室のふすまを刀でズタズタに切りつけるんです。表から見える廊下側の障子はきれいなままで。
その場面まで描いたとき、やっと「有功はとても見栄っ張りで、負けず嫌いでプライドの高い若者だったんだな」と、腑に落ちました。今回のドラマで福士蒼汰さんが演じる有功を観ても、あらためて「プライドを捨て切れなかったんだなぁ」と感じました。