医療従事者に対して過剰なクレームや暴言を言う患者は、モンスターペイシェントと呼ばれます。近畿大学医学部皮膚科学教室主任教授の大塚篤司医師は、そんな患者も性格が大きく変わる場合があるといいます。大塚医師の過去の経験から、忘れられない患者さんについて語ります。
* * *
大病を経験すると性格が大きく変わる場合があります。悪いほうに変わることもあれば良いほうに変化することもあります。
今回は守秘義務に反さぬようにフィクションを交えながら、忘れられない患者さんの話をしたいと思います。
宮沢光一さん(仮名)はモンスターペイシェントと呼ばれる患者さんの一人でした。
「いつまで待たせんだよ!」
廊下で宮沢さんの怒鳴り声が響きます。
ほかの患者さんにも迷惑がかかるため、慌てて診察室に招き入れれば、
「包帯の巻き方が違うんだよ!」
と患部の処置をしてくれた看護師を怒鳴りつけます。
言葉遣いはいつも乱暴で、暴力こそは振るわなかったものの、威圧的な態度に医療スタッフは疲弊していました。
今でこそ大学病院や総合病院など比較的大きな施設では、こういった問題を抱える患者さんに対し、特別なスタッフが対応し仲裁に入ります。医療従事者が問題行動の対応に追われ、ほかの患者さんの診療に影響を及ぼさないようにするためです。トラブルの内容によっては医者の言動に問題がある場合もあります。それを第三者がしっかり見定めるという意味もあるでしょう。
15年ほど前は、患者トラブルに対して仲裁に入るスタッフはおらず、私たちが宮沢さんの暴言に直接対応していました。
ある日、宮沢さんは大きな病に倒れます。
普段私たちが診ている皮膚病よりもずっと深刻な病気です。
生死の境をさまよい、なんとか一命をとりとめた宮沢さんは体の自由を失い、車椅子の生活を余儀なくされました。
言葉を話すにもろれつは回らず、ただ頭だけははっきりしていて私たちのしゃべっている内容は100%わかっている様子でした。