■転職先は「アウェイ」だと思え
以上が、転職先を辞めざるを得なかった花田さんの事例だ。確かに、鈴木社長の行為は卑劣である。しかし、花田さんに反省すべき点は無かったのだろうか。
花田さんの失敗は、社長に肩入れしすぎ、周囲の社員との対立構造の矢面に立ってしまったことだろう。いきなり管理職として現れた“外様”に対して、プロパーの社員たちが警戒するのは当然のことだ。「早く成果を出さなければ」と焦るほど、反発して足を引っ張られることは容易に想像できたはずだ。
現場のやり方をいきなり否定することはせず、たとえ数人でも理解者を得てから改革に着手しても遅くはなかった。成果を挙げるのはその後でいい。
また、社員たちに「上に対して散々異を唱えたのですが」「お気持ちはわかります。もう一度、私から社長に相談してみます」と本音をさらけだし、自分も苦しい立場であるという弱さを見せ、賢く立ち回るべきだった。
「半年間は“反闘志”間」。
見失いがちな転職者の心得である。転職をしたら、まずは焦りや野心は隠し、半年間は、理解者や協力者をつくる期間にあてるべきなのだ。遠回りに見えても、最終的には、彼らが転職者にとって「大きなリソース」となる。花田さんの“失敗”は、転職者が知っておくべき教訓が含まれている。
◎川野智己(かわの・ともみ)
人材育成コンサルタント・転職定着マイスター。伊藤忠アカデミー教育マネジャー、大手人材紹介会社教育研修部長などをへて、現在は転職定着マイスターとして、セミナー講師やコンサル活動を通じ転職先での定着と活躍の支援を行っている。転職後1年以内の離職率を44%から9%に引き下げるなど実績を残している。