数日後、社長の指示通りに自宅待機をしていた花田さんに、さらなる衝撃がおとずれる。怒りに任せた組合員が花田さんの自宅にまで押しかけこう言い寄った。

「お前がいない間に鈴木社長から話を聞いた。『花田がリストラ騒動の首謀者だ』『この混乱は、新参者の花田が自分への報告なしに、勝手な行動をしたからだ』と説明してくれた。お前は、うちの会社の中を、うそでたき付けて楽しいのか!」

■社長の寝返りと裏切り

 そ、そんなはずはない。花田さんは、すぐに鈴木社長に電話をして真偽を確かめた。

「ど、どういうことでしょうか」

 震えながら携帯を握る花田さんに、鈴木社長は自らの発言の真偽には触れず、冷徹にこう言い放った。

「君がリストラの首謀者だと、皆は信じ切っている。あんなばかな連中だぞ。いったん誤解したらもうそれを解くことはできない。それに奴らは何をしでかすかわからない。悪いことは言わない。けがをさせられないうちに、このまま退職したらどうか」

「まだわからないのか。(君は)意味不明な理屈でまくしたてる偉そうな奴だと非難されていることを。要は、君は現場の社員の信頼を失っているのだ。私が君に『厳しく指導しろ』と言ったかは覚えていないが、嫌われろとは言っていない。親会社に相談して、君の将来への再就職の応援として、給与の2カ月分を払うことにした。これで納得してくれ」

 それは、土壇場で保身に走った鈴木社長と、争議を止めて手打ちをしたい労組との利害が一致した策であった。花田さん以外は誰も傷つかずに済むという巧妙な落としどころでもあった。

 花田さんは、親会社まで既に手を回されていることや、復帰しても職場で四面楚歌(そか)となることも考え、不本意ながら退職を受け入れざるを得なかった。花田さんは肩を落としてこう話す。

「ひどい会社、ひどい経営者であることを見抜けなかった。自分には運が無かったんです。一刻も早く忘れて、次の転職先を探します。今度こそ、まともな勤務先を見つけようと思います」

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転職して半年間は「反闘志」間