花田さんが転職してすぐ、子会社社長となった鈴木(元)部長は、不透明な経費流用や賞与のお手盛り配分など次々に不正を暴き出していった。そして、不正の当事者であり、それまで実質的に社内を牛耳っていたプロパー専務を解任。さらに、反発する専務派社員対しては懲戒や手当カットで応戦したうえ、業績低下を理由に社内で退職勧奨を募るなど強引に社内改革を進めた。

 当然ながら、専務派は猛反発。強引なやり方には他の社員からも不満が噴出し、結局、全社員が鈴木社長に反発するようになっていった。子会社の労働組合と会社側は全面対決となり、仁義なき戦いに突入していった。

 一方の花田さんは、騒然とする社内の雰囲気に戸惑いながらも、採用してくれた鈴木社長への恩義もあり、忠実に職務を実行していった。賃金カットなど社員に痛みを強いる施策の通知や労組との団体交渉など、社長に代って前面に立った。「社の経営方針を展開している」との信念のもと、経営陣の一翼を担っているという高揚感に包まれてもいた。

■「死に神」とののしられる

 そんなある朝、花田さんが出勤すると一通のメールが届いていた。全社員がCCで含まれていたメールには、こんな文言がつづられていた。

「この死神! リストラを行うために社長が送り込んだ疫病神野郎」

 花田さんはがくぜんとした。自分は鈴木社長の命に従っているだけなのに、なぜこんなことを言われなければいけないのか……。悩んだ末、花田さんはこの出来事を鈴木社長に打ち明けた。

「こんなメールが来るほど、組合員は私のことを敵視しています。職務をまっとうしているだけなのに、こんな仕打ちを受けて毎日がつらいです」

 花田さんは、鈴木社長がいつものように激励してくれると思っていた。だが、社長の口から出てきたのは意外な言葉だった。

「そうだな。精神的につらいだろ。いったん、自宅でしばらく休みなさい。復帰時期についてはこちらから改めて声をかけるよ」

 唐突な自宅療養の指示だったが、それを疑問に感じる余裕は、当時の花田さんにはなかった。むしろ、鈴木社長による配慮だと感じた。

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「嫌われろとは言っていない」