イギリスの国葬はどのような制度なのだろうか。イギリス法思想に詳しい同志社大学の戒能(かいのう)通弘教授はこう説明する。
「英国では国葬は制定法ではなくて、慣習として女王など国家元首を国葬とすることになっています。ただ、例外的に国家元首以外でも際立った功績を残した人物を国葬にすることがあり、直近では1965年に亡くなったウィンストン・チャーチル元首相が国葬でした」
国家元首以外での国葬の例としては、万有引力の法則を発見したアイザック・ニュートンや、ナポレオン軍を破ったネルソン提督、同じくナポレオン戦争で活躍したウェリントン公爵などがいる。
また、国葬に準ずるものとして、儀礼葬もある。ダイアナ元皇太子妃やエリザベス女王の夫フィリップ殿下、さらにはマーガレット・サッチャー元首相などが例として挙げられる。
国葬を実施する上でポイントになるのは、議会の承認だ。英国議会が公表している資料では「議会の動議によってそれ(国葬)は認められる」と説明する。予算の議決権を持つ議会の承認が得られなければ、実施できない立て付けになっている。
戒能教授はこう説明する。
「イギリスでは国王による課税や国費の支出について、議会の同意、つまり国民の同意が必要となった歴史的な経緯があります。これは民主主義の根幹にある考えです。チャーチル元首相が国葬となった際にも、国葬には多額の費用が使われるため、議会の過半数の同意が必要とされました。国民の代表である議会の承認なしではできないということです」
ちなみに、イギリスでは生前に本人に国葬を希望するかどうか尋ねることもあるようだ。英国議会のホームページで公開されている資料によると、サッチャー元首相は国葬を断ったとされる。当時の報道で、サッチャー元首相のスポークスマンはこう語ったという。
<彼女は特に国葬を望んでおらず、家族も望んでいませんでした。彼女はそれ(国葬)は適切ではないと考えており、公開の場で安置されることを特に望んでいませんでした>
国葬が国民の意見を二分しないためにどうしたらいいか。イギリスの慣習から学ぶことは多そうだ。
(AERA dot.編集部・吉崎洋夫)