82年オフの近鉄・井本隆とヤクルト・鈴木康二朗、柳原隆弘の1対2トレードは、井本が1年目にセ・リーグワーストの14敗を喫し、わずか2年で引退したのに対し、鈴木は2年連続最多セーブを記録するなど、石本貴昭とダブルストッパーで活躍、ヤクルト時代に芽の出なかった柳原も、85年には95試合に出場し、8本塁打を記録した。

 83年オフに木村広とともに江夏豊との1対2トレードで日本ハムに移籍した柴田保光も、西武では5年間で通算8勝と伸び悩んだが、移籍後は86年に14勝を挙げるなど、押しも押されぬエースに成長。一方、西武で2年連続20試合以上に登板した木村は、日本ハムでは10試合登板にとどまり、たった1年で戦力外通告を受けている。

 また、巨人時代に巨大戦力の中に埋もれていた吉岡雄二は、97年に石井浩郎との交換で石毛博史とともに近鉄に移籍すると、3年目から不動のレギュラーに定着し、01、02年に2年連続26本塁打を記録するなど、長く主砲を務めた。

 これとは逆に、06年オフに谷佳知との交換でオリックスに移籍した長田昌浩と鴨志田貴司は、高校時代はいずれもトップクラスの評価ながら、新天地でも素質を開花させることができずに終わっている。

 トレードはまさに人生の縮図である。(文・久保田龍雄)

●プロフィール
久保田龍雄/1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。最新刊は電子書籍プロ野球B級ニュース事件簿2021」(野球文明叢書)。

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久保田龍雄/1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。

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