エース級を何人も継ぎ込む豪華投手リレーは、オールスターならではの風物詩だが、日本シリーズでも、V決定目前の最終回にエースを投入したり、王手をかけられた試合でダブルエースの継投が見られたりする。そして、時には公式戦でも、オールスター並みの豪華リレーが実現することだってあるのだ。
平成以降の公式戦で最も豪華な投手リレーと言えるのが、1994年10月8日の中日戦で、巨人・長嶋茂雄監督が見せたエース三本柱の継投だ。
この日まで両チームとも69勝60敗の同率首位。シーズン最終戦の直接対決で勝ったほうが優勝という“国民的行事”の一大決戦に必勝を期した長嶋監督は、5月18日の広島戦で完全試合を達成し、10月1日にもヤクルトを3安打完封して12勝目を挙げた槙原寛己を先発のマウンドに送り出した。
槙原は1回1死一、二塁のピンチを併殺で切り抜けたものの、世紀の大一番の重圧から苦しい投球が続く。落合博満の先制ソロなどで2点を先行した直後の2回にも、4連打を浴び、あっという間に同点。だが、後ろには最強のリリーフ陣が控えていた。
なおも無死一、二塁のピンチで登板したもう一人のエース・斎藤雅樹は「中日ファンがすごい声援だったけど、僕はいつも気にしない」と落ち着いて後続をピシャリと抑え、相手に流れを渡さない。
エースの力投に打線も応える。3回に落合のタイムリーで再び勝ち越すと、4回に村田真一とコトーの一発攻勢、5回にも松井秀喜の右中間スタンド上段への特大ソロが飛び出し、6対2とリードを広げた。
そして、6対3の7回から3日前に8回100球を投げたばかりの3人目のエース・桑田真澄がマウンドへ。ハートの強さを買った長嶋監督が「一番しびれる場面で使う」と予告していたとおり、“最後の仕上げ”を託されたのだ。
「槙原さんもプレッシャーの中で頑張った。斎藤さんもいい仕事(5回1失点)をした。オレが打たれるわけにいかないんだぞ」と自らに言い聞かせた桑田は、本調子ではないながらも、気迫の投球で3回を2安打4奪三振の無失点に抑え、見事胴上げ投手になった。