とはいえ、ミスとは関係ない職員にとっては、とばっちりとも言える。子どもの進学費用、親の介護や病気の治療費などまとまったお金が必要な職員もいるだろう。拒否する権限はないのだろうか。
村松弁護士によると、「労働契約法」では、使用者と労働者の合意があれば労働契約の内容を変更できると規定されている。逆に言えば、労働者が合意しなければ変更は不可能だ。
だが、公務員は労働契約法の適用外のため、職員に基本的に拒否する権限はないという。村松弁護士はこう話す。
「金額が4億円と大きいため、担当部署や幹部職員に限らない減給の判断をしたのかもしれませんが、職員全体の士気に影響することは否めません。このような判断をするのならば、少なくとも該当期間は市長自身の給与を大幅にカットすべきとも思えます。そうであれば、職員の納得も得られやすいでしょう」
確かに、市長の減額が小さすぎるとの声はでている。
ただ、職員が負担しない場合、改修費用を税金で補填することになる。これには納得しない市民もいるだろう。
「これが民間の小さな企業であれば、損失補填が不可能で倒産する事態になりかねない金額です。倒産すれば当然、従業員は職を失います。そう考えれば、全ての職員の給与カットはやむを得ないという判断もあるかと思います」(村松弁護士)
21年2月には、兵庫県が貯水槽の排水弁を閉め忘れた職員に対し、損害の半額程度に当たる300万円を請求し議論を呼んだ。その後、高知市でもプールの水を止め忘れた小学校教員に市が66万円を請求するなど「自腹弁償」の流れが続いている。
ミスが起きない職場はない。ミスを一度もしたことがない社会人はいないだろう。一方で、国民全体の給与が上がっていないと指摘される中、公務員に対しての目が厳しくなっている側面はあるのかもしれない。
村松弁護士はこう指摘する。
「公務員の自腹弁償が目立つ理由は、自治体がより県民・市民感情を気にするようになったからだと考えられます。県民・市民の目を気にしすぎると、自治体は公務員のミスに厳しく対処せざるを得なくなります。どのような過失について、どの程度の弁償をすべきか。何らかの指標を作っていった方が、自治体にとっても働く公務員にとっても良いかもしれません」
自分が住む自治体が、ミスで大きな損失を出した時にどう考えるか。どの自治体でも起こり得る出来事である。(AERA dot.編集部・國府田英之)