若い世代の減少は日本からイノベーションを起こす力も奪う。「新しいこと」というのは往々にして若者の挑戦から誕生するが、人手が足りなくなると会社組織は失敗に不寛容になりがちだ。新しいことへの挑戦より目先の利益の確保が優先されるようになればマンネリズムに支配される。資源小国にとって技術力の衰退や新しい発想の欠如は致命的だ。人口減少の最大の弊害は日本社会全体が「老化」し、チャレンジマインドを失うことなのである。

 人口減少は地域社会にも深刻なダメージを及ぼす。総務省の「過疎地域等における集落の状況に関する現況把握調査最終報告」(19年度)によれば過疎地域の集落の総数は6万1511で、このうち139の集落は無人化した。住民の過半数が65歳以上という限界集落は前回調査(15年度)の22.1%から32.2%へと増加しており、2744集落はいずれ消滅すると予測されている。

 過疎化が進み商圏人口が少なくなれば、日常生活に必要な商品やサービスを扱っていた民間事業者は撤退、廃業を余儀なくされる。水道や電気といった公共サービスは利用者が減ったとしても設備の点検や修繕にかかるコストを大幅に削減するわけにはいかないので、1軒あたりの負担額が大きくなるだろう。

 人口減少の解決策としては、移民や外国人労働者の受け入れ拡大を主張する声もある。だが、コンピューターが普及して開発途上国にも多くの仕事が創出され、日本以外でも外国人労働者のニーズは高まっている。日本は毎年数十万人ずつ人口が減っていくのに、これを穴埋めする規模の人材を日本に送り出し続けられる国がどこにあるのか。AI(人工知能)は省力化に役立つが、すべての仕事を肩代わりできるわけでない。

 日本はもはや社会の縮小を前提とせざるを得ない状況に追い込まれているのである。急ぎ取り組むべきは、人口が減っても「社会の豊かさ」を維持するための方策を考え、実行に移すことだ。

 いつか出生数が増加して人口が横ばいとなる時代が来ることを願いながら、当面は「戦略的に縮む」しかない。それには、捨てるものを捨て、残すものはこれまで以上に磨きをかけ日本の強みとして活かすことだ。企業は「厚利少売」への転換を迫られ、地方は商圏人口を少しでも維持すべく集住が求められるだろう。

 過去の成功体験にしがみつき社会の縮小を傍観し続けたならば、日本は貧しい国へと転落していく。いまこそ「現状維持バイアス」と決別するときである。

週刊朝日  2023年3月10日号