ただ、転職者が以前勤めていた会社のデータや秘密事項を持っている、あるいは知っているというケースは多々あるだろう。

 どのような行為が、違法とされる可能性があるのだろうか。

 村松弁護士は、「持っているデータや情報をどのように入手したかが大きい。複製してはいけないものを複製したなどの事実があれば、処罰の対象となる可能性があります」と指摘する。

 また、職場での雑談であっても、うっかり「営業秘密」を漏らしてしまった場合は、民事上の責任が生じる可能性はあるそうだ。

 村松弁護士によると、不正競争防止法は罰則の強化や処罰範囲の拡大など厳罰化の流れにあるという。

2019年にはアシックスの元社員が、競合他社に転職する際、靴の性能データを不正に持ち出したとして逮捕された。

 昨年には楽天モバイルの元社員が、前職のソフトバンクから技術情報を不正に持ち出したとして逮捕。ソフトバンクは元社員と楽天モバイルに損害賠償を求め提訴した。村松弁護士はこう警鐘を鳴らす。

「海外に比べて、日本の企業や社員は、営業秘密の漏洩についての意識がまだまだ低いです。田辺容疑者も違法性の認識はあったように思いますが、メールでデータを送信するなどの杜撰な行為を見ると、刑事罰の対象になるとまでは思っていなかったのでしょう。転職者は営業秘密として管理されているものは、持ち出さない、漏らさないということを徹底してほしいと思います」

 今いる会社の秘密を、うかつにライバル企業に転職する“武器”にしてはいけないということだ。(AERA dot.編集部・國府田英之)

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國府田英之

國府田英之

1976年生まれ。全国紙の記者を経て2010年からフリーランスに。週刊誌記者やポータルサイトのニュースデスクなどを転々とする。家族の介護で離職し、しばらく無職で過ごしたのち20年秋からAERAdot.記者に。テーマは「社会」。どんなできごとも社会です。

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