テレビの世界ではその能力が生かされた。視聴者や共演者は「フワちゃん」という人間をどういうふうに見ているのか。それを踏まえて、どういうふうに行動すれば彼らを楽しませて、彼らと良い関係を築くことができるのか。彼女はそのことを誰よりも冷静に考えて、戦略を練って、それを実践してきた。

 そして、フワちゃんはそんな戦略的な一面をコソコソ隠そうとはしない。むしろ、積極的にさらけ出すことで、それも含めて面白がられているようなところがある。

 フワちゃんのようなタレントは、ある段階で「この子、カメラの前ではタメ口だけど、裏ではものすごく真面目なんですよ」などと、共演者からイジられたりすることがある。でも、フワちゃんのキャラクターにはその単純な「表の顔・裏の顔」という図式にとどまらない奥行きがあるので、そういうイジリの標的になることもない。

 ゴールデン・プライムタイムの番組では体を張って派手に暴れ回ったり、スポーツに挑戦したりする。一方、深夜番組やラジオでは、明るく振る舞いながらも戦略的な一面を覗かせたり、親しい芸能人と距離を詰めてじっくり話をしたりする。フワちゃんのことを熱心に追いかけているファンにとっては、その振れ幅の大きさも魅力である。

 9月25日放送の『行列のできる相談所』(日本テレビ)では、フワちゃんがプロレスデビューすることが発表された。プロレスというこだわりの強いファンが多い面倒なジャンルにあえて飛び込んでいくのも、彼女らしくて好感が持てる。「体を張った本気のパフォーマンス」であるという点では、彼女がこれまでにバラエティ番組でやってきたことと大きな違いはない。

 はっきり言ってしまえば、芸能界もテレビ界も義理と人情の世界だ。人間としてまともでなければ、長く出続けることはできない。フワちゃんがここまで活躍できているのは、「プロデューサー・フワちゃん」が「タレント・フワちゃん」の首根っこをがっちりつかんでいるからなのだ。(お笑い評論家・ラリー遠田)

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ラリー遠田

ラリー遠田

ラリー遠田(らりー・とおだ)/作家・お笑い評論家。お笑いやテレビに関する評論、執筆、イベント企画などを手掛ける。『イロモンガール』(白泉社)の漫画原作、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと「めちゃイケ」の終わり<ポスト平成>のテレビバラエティ論』 (イースト新書)など著書多数。近著は『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)。http://owa-writer.com/

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