※写真はイメージです(写真/Getty Images)
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「腸内フローラ」という言葉を耳にしたことがある人は多いだろうが、「子宮内フローラ」はどうだろうか。フローラとは「細菌叢(そう)」、つまり、さまざまな細菌の集まりのことをいう。近年、子宮内にもフローラが存在すること、そして、子宮内フローラが妊娠や流産などに関係する可能性があることがわかり、生殖医療の現場で注目されている。長年、不妊治療に携わるIVFなんばクリニック副院長、門上大祐医師に、子宮内フローラと妊娠の関係、子宮内フローラの検査や治療について取材した。

【教えてくれたのは】IVFなんばクリニック副院長、門上大祐医師

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 不妊治療をしていた大阪府在住のAさん(32歳)は、人工授精に約1年間取り組んだが妊娠につながらず、2020年秋、体外受精を希望してIVFなんばクリニックを受診した。体外受精では、受精卵を培養して成長させた「胚盤胞(はいばんほう)」を凍結保存し、適切なタイミングで子宮に移植する。Aさんは、同年10月と12月に移植をしたが、2回とも着床(受精卵が子宮内膜に定着し、妊娠が成立すること)しなかった。

 同クリニックのデータでは、32歳の女性の、良質な胚盤胞一つによる妊娠率は約40%。Aさんは2回続けて着床につながらなかったことから、主治医である門上医師は、子宮内環境を確認するために「子宮内フローラ検査」を提案。Aさんも希望し、検査を受けた。

 子宮内フローラとは、子宮内に存在する細菌の集まりをいい、子宮内フローラ検査では、子宮内にどのような細菌が、どのぐらいの割合で存在しているかを調べることができる。子宮内フローラで重要な役割を果たすのが、善玉菌の「乳酸桿(かん)菌」(ラクトバチルス)だ。ラクトバチルスの割合が80~90%以上であることが妊娠をするうえで望ましく、同クリニックでは80%未満の場合、治療をおこなう。

 ラクトバチルス属の細菌は、病原性細菌(悪玉菌)の繁殖を抑制する働きがあり、ラクトバチルスが減少すると、悪玉菌が増殖してしまう。それらを排除するために免疫が活性化し、子宮に入ってきた受精卵まで異物ととらえて攻撃してしまうため、着床できない可能性が考えられている。また、ラクトバチルス自体が胚の着床を促進する可能性も報告されている。これまで「原因不明」とされてきた不妊の一因が、子宮内フローラにあるかもしれないのだ。

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子宮内フローラの環境が悪いと体外受精の成功率が低下する