楊銘宇 黄メン(火へんに悶)鶏米飯(ヨウメイウ ファンメンジーミーファン) 高田馬場店/東京都新宿区高田馬場2-14-8 NTビル2F/世界6千店超のファストフードチェーンの関東1号店。(撮影/写真映像部・高橋奈緒)
楊銘宇 黄メン(火へんに悶)鶏米飯(ヨウメイウ ファンメンジーミーファン) 高田馬場店/東京都新宿区高田馬場2-14-8 NTビル2F/世界6千店超のファストフードチェーンの関東1号店。(撮影/写真映像部・高橋奈緒)

■市井の営みたる食

 客層は中国各地出身の在日中国人に加え、中央アジア出身者も多い。日本人客も3割程度いるという。日本に住む新疆ウイグル自治区出身者は多くない。2011年を最後に統計資料がなく最新のデータは不明だが、11年時点で新疆を本籍地とする人は在日中国人全体の0.3%弱。それでも、同店は系列店をオープンするほど盛況だ。中国で食の多様化や全国化が進んでいること、日本人客も増えていることが背景にあるだろう。

 さて、新疆中華誕生の陰には漢民族のウイグル自治区への大量移住がある。市井の営みたる食は共産党政権によるウイグル族弾圧とは一線を画すが、ガチ中華の皿からのぼる湯気の先に、そんな中国社会の現実が垣間見えることもある。

■世界で6千店超

 ガチ中華の多様化を示す例として、チェーン店進出も挙げられる。東京で3店、大阪で2店を展開する「楊銘宇 黄メン(火へんに悶)鶏米飯」は世界で6店超を擁する中国有数のファストフードチェーンだ。2010年代前半に中国全土に広まり、19年に日本に上陸した。黄メン(火へんに悶)鶏米飯は山東省の郷土料理で、柔らかくなるまで煮込んだ鶏肉が特徴。白米とスープがついた定食として供される。東京の3店を経営する福建省出身の金子龍立さんは言う。

「楊銘宇は日本の『すき家』のような、中国人なら一度は食べたことのある味です。同じ味を日本でも食べてほしいと思い、留学生の多い高田馬場に関東1号店をオープンしました」

 素朴な飽きのこない味は日本人にもなじみやすいだろう。

 現代中国の世相と味を感じる一皿を訪ねれば、思わぬ発見があるかもしれない。

■90年代を再現「九年食班」 

 新型コロナ禍以降、中国人オーナーによるガチ中華店の開店が加速している。中国の最新トレンドを持ち込んだ店やインパクトある内装の店など新興勢力の台頭も著しい。

 22年1月、東京・上野にオープンした九年食班(ジゥニェンシーバン)は「1990年代の中国」がテーマのコンセプトレストランだ。遼寧省出身のオーナー・紀恒さんが、新型コロナ禍で一時帰国できない同胞が懐かしめる場をつくりたいと店を開いた。

「九年食班」。料理はもちろん、90年代の街角・学校・映画館をイメージした内装も人気だ(東京都台東区上野4-4-5 Dreamsミトミビル6F)(撮影/編集部・川口穣)
「九年食班」。料理はもちろん、90年代の街角・学校・映画館をイメージした内装も人気だ(東京都台東区上野4-4-5 Dreamsミトミビル6F)(撮影/編集部・川口穣)

 店内には低めのテーブルとパイプ椅子が並び、90年代の街角・学校・映画館をイメージした内装で飾られる。名物は「戳子肉」という鉄板料理と串焼きだ。中国がまだ豊かではなかったころ、道端の屋台で料理を買って家族で食べた思い出を再現したという。

「『懐かしい』と涙を流す人もいます。店に来た人はみな、料理を囲みながら学校生活や恋愛など青春時代の話をしていて、店を開いてよかったと思っています」(紀さん)

 20~30代の中国人客が多いが、日本人客も増えている。こうした新興系の店を訪ねれば、一味違ったディープな中国を体感できるだろう。(編集部・川口穣)

AERA 2023年1月2日号-9日合併号

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川口穣

川口穣

ノンフィクションライター、AERA記者。著書『防災アプリ特務機関NERV 最強の災害情報インフラをつくったホワイトハッカーの10年』(平凡社)で第21回新潮ドキュメント賞候補。宮城県石巻市の災害公営住宅向け無料情報紙「石巻復興きずな新聞」副編集長も務める。

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