「ここ数年、外食に非日常さを求める傾向が強まっています。利便性よりレジャー感を求めるなかで、食を通じて新たな世界に触れられるガチ中華が人気になっているのです。中華は日本人になじみがあり、本場の味はリピーターも付きやすい。さらに根付いていくと考えています」
冒頭で紹介した味坊は当初から日本人客をターゲットにした店だ。ただ、ガチ中華店の多くは出店の事情がやや異なる。ガチ中華好きたちが集う東京ディープチャイナ研究会の中村正人さんは、ガチ中華を「現代の中国料理」と表現する。
「ガチ中華は海を渡って日本に来た中国圏の人が提供する料理で、彼らが故郷を懐かしみ、自分たちの好みに合わせてつくる本場の味です。伝統料理に限らず、世相や流行も反映した現代の中国の味と言えるでしょう」
■「四大中華」以外の味も
中村さんによると、ガチ中華には大きく四つのジャンルがあるという。まず、四川料理に代表されるしびれを伴う麻辣系。二つ目が羊料理。中国は生産量も輸入量もブッチギリで世界一の羊肉大国で、串焼きをはじめ多様な羊料理がある。三つ目がご当地麺。蘭州牛肉麺(甘粛省)やビャンビャン麺(西安)などは日本でもかなり広まってきた。四つ目が小吃と呼ばれる粉物を中心としたファストフードだ。
「ただ、ガチ中華はこれにとどまりません。地方料理では北京・上海・広東・四川の『四大中華』以外の味が楽しめる店も増えています。中国国内で地方料理の全国区化が起きている事情もあり、『中国一辛い』と言われる湖南料理や酸味の利いた雲南料理など、多様な料理が日本でも味わえるようになっています」
池袋駅東口にほど近いビル5階にある「火焔山 新疆・味道」は、イスラム調のしゃれた内装の店。オーナーは新疆ウイグル自治区出身の華人で、この店で提供するのはテュルク系の中央アジア料理に属するウイグル料理をベースに、中華風のアレンジが加わった「新疆中華」だ。
「グゥオ(寸にしんにょう)油肉拌面」はうどんのような麺に牛肉がたっぷり入ったソースをかけた、ラグマンという中央アジア料理のような一皿。記者はかつて、2年間中央アジアで暮らしたことがある。そのときに食べていたラグマンと比べると、「懐かしいけれど、違う味」といったところか。麺やベースとなる味付けは似ているが、中央アジアにはない辛味がある。新疆産のトウガラシを使っているという。刺激的な味付けに箸が進んだ。店長の高雪テイ(女へんに亭)さんは出店の経緯をこう話す。
「当店のオーナーをはじめウイグル自治区出身者にはイスラム教徒も多く、豚肉が食べられないなど食の制限があります。自分たちの味を安心して食べられるようにとオープンしました」