神奈川県医療危機対策統括官で、藤沢市民病院副院長の阿南英明氏
神奈川県医療危機対策統括官で、藤沢市民病院副院長の阿南英明氏

 これまでの感染症対策は、コロナ患者を全数把握し、濃厚接触者も特定して管理下に置くことで、感染拡大を抑えようとするものでした。しかし、この枠組みは、コロナが日本に入ってきた初期に作られた仕組みです。一度作ったからといって、ずっと続ける仕組みではない。特にオミクロン株で患者が大幅に増えてしまったときに、保健所はパンクし、十分に機能を果たせませんでした。

 それに、オミクロン株の流行期になってから人類にとっての脅威の程度は変化してきました。ワクチンや抗ウイルス薬があり、コロナをいつまでも特別な取り扱いを続けるのは適切ではありません。だから、ステップを踏んで、社会経済活動を回しながら、医療も保持できる体制に変えましょうということを提言している。出口戦略に向かおうとするものです。

――コロナの脅威はどう変わったのでしょう。

 コロナは高齢者の病気になったといっていい。これは感情ではなく、理屈で考えないといけません。オミクロン流行期以降なくなる方は超高齢の世代がほとんどであり、この世代はコロナ感染の有無に関わらずに様々な併存疾患で亡くなることが多い方々です。

 第5波のデルタ株のときは、40代、50代の人が集中治療室に入って、亡くなっていました。平均寿命が下がるような状況で、現場は「何とか助けなきゃ」とパニックでした。ただ、第7波では現場は比較的冷静でした。それは亡くなる方の多くが「寿命をお迎えになりましたね」と落ち着いて受け入れられていたからだと思います。

 ひと一人の命は確かに大切ですが、一人も死なせてはいけないとなると、以前のように社会活動を止め、教育を止めることを繰り返すことになり、社会が死んでしまう。人類が罹患(りかん)する疾患が一種類増えたのですから、感染者や死亡者数が2019年以前と同じであるはずはないのです。ほかの病気のように、一定の感染者と死者は受け入れたうえで落としどころを探る段階に来ているのではないでしょうか。

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コロナは監視下に置かなくていい病気?