日本初の赤ちゃんポストは、本市の慈恵病院が2007年に開設した「こうのとりのゆりかご」だ。きっかけは熊本県内で立て続けに3件の嬰児(えいじ)殺害遺棄事件と遺棄事件が発生したことだった。

「ゆりかご」には15年間で全国から161人の赤ちゃんが預け入れられた。多くは自宅で孤立出産した女性が車や公共交通機関で訪れている。熊本市が設置する検証部会は「ゆりかごが孤立出産を誘発している」「孤立出産は虐待」と批判してきた。

 赤ちゃんポストをめぐる他国の状況を見ると、先行国のドイツは90カ所以上、隣国の韓国は3カ所が、教会、病院、保育園などに設置され、ドイツでは20年間に800人以上、韓国では12年間で1900人以上が預けられた。1カ所しかない状態が長期間続いたのは日本のみだ。しかも、日本では1カ所目が産婦人科病院で安全な整備が尽くされたことが裏目に出て、後続の設置ハードルが上がった側面がある。17年に関西の医師と助産師が連携して神戸市での設置に向けて行政と協議したが、助産院を設置場所としていたところ、産婦人科医の常駐しない環境を神戸市が問題視し、実現に至らなかった。だが、赤ちゃんポストに関する規定法や届け出義務はない。冒頭で坂本さんが指摘した「行政に事前に相談してうまくいかなかった例」とはこのことだ。(ノンフィクションライター・三宅玲子)

AERA 2023年3月6日号より抜粋

暮らしとモノ班 for promotion
「昭和レトロ」に続いて熱視線!「平成レトロ」ってなに?「昭和レトロ」との違いは?