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吉岡天平さんがプロボクサー小原佳太選手(三迫ジム)に密着し、本格的に撮影を始めたのは2016年9月、モスクワで行われた試合からだった。対戦相手はロシア人のIBF世界スーパーライト級チャンピオン、エドゥアルド・トロヤノフスキー。それまで知ることのなかったボクシングの世界を目にして衝撃を受けた。
「国内での試合とはまったく違う、アウェー戦の悲哀をものすごく味わった。日本を出発する前から、こんな扱いになるんだ、と思うほどでした」
吉岡さん自身、東京・築地にあるボクシングジム、ワンツースポーツクラブのマネージャーでもあり、ボクシング歴は長い。そんな吉岡さんでさえ驚くような事態が次々と起こった。
ロシアを訪れるにはビザが必要で、宿泊するホテルが決まっていないとビザは下りない。
「ホテルは向こうの指定なんですが、ビザが発給された後にホテルを変えられてしまった。そうすると、ビザはとり直しになる。ぼくでさえビザがとれているのに、小原選手と三迫ジムの会長のビザが出たのは出発前ギリギリだった。さらに、現地に行くと、ホテルの予約が入っていないんですよ」
あからさまな嫌がらせであるが、そのような状況は対戦相手の選手が意図してつくり出しているわけではないという。「ただ、国家の威信が関わるような試合になると……まあ、『手違い』ですよ」と、吉岡さんは言葉を濁し、こう続けた。
「試合前に練習するジムも与えてもらえないんです。そっちで勝手に調整して、みたいな感じで。モスクワに到着後、もうみんなで一生懸命にジムを探しました」
試合会場はまさに「敵地」だった。
「ネオナチを彷彿させる集団が会場に押し寄せた。全員が真っ黒ずくめの服装で、太鼓やドラみたいなのをドンドンと叩きながら、ずっと大声で罵声を浴び続けた。日本ではその音声をカットして放映したんですが、あれほど怖い思いをしながら撮影したのは初めてでした。そんな雰囲気のなか、小原選手はあっという間にKOされてしまった」