
父と弟を殺害したとして殺人などの罪に問われた、堺市の無職足立朱美被告(48)。今年8月から大阪地裁で始まった裁判員裁判は11月7日に論告求刑があり、検察側は死刑を求刑した。初公判で「何も申し上げることはない」と述べ、最後まで何も語らなかった足立被告だが、母親が証人として証言台に立った時だけは、表情に変化が見て取れた。
事件は2018年1月、足立被告の父、富夫さん(当時67)が、低血糖状態で倒れ、救急搬送されたことにはじまる。
入院した富夫さんは数日後に回復したが、退院した翌日に再度、低血糖状態となり病院に運ばれた。それからは意識が戻ることなく6月に亡くなった。富夫さんは糖尿病を患っていた。
その間の3月には、弟の聖光さん(当時40)が、足立被告が社長を務めていた会社事務所のトイレで、練炭による一酸化炭素中毒で死亡した。
検察側は、いずれのケースも足立被告が殺意を持って犯行に及んだとして起訴した。
起訴状によると、足立被告は、実家で富夫さんに対し、インスリンを多量に注射して低血糖脳症などに陥らせ、殺害したとされる。聖光さんには睡眠薬を飲ませて眠らせ、トイレで練炭を燃やして自殺に見せかけ、一酸化炭素中毒で殺害したとされる。
まず、「富夫さん殺害」の審理では、検察はいきなり、足立被告の母親を証人として法廷に呼んだ。
それまで毅然(きぜん)としていた足立被告だったが、このときだけは、涙がこぼれた。
母親は、
「被害者であり、加害者の側面もあり、複雑な気持ちです……」
と心境を吐露した。
夫と息子を亡くし、娘が殺人の罪で起訴されたという現実に、口ごもる場面もあった。
検察側は、富夫さんが治療のために使用していた、血糖値測定器について母親に尋ねると、
「(富夫さんが)なぜ急に続けて低血糖になるのか疑問でした。病院に運ばれた後、血糖値の測定器を見ると、かなり低い20(ミリグラム)くらいになっていることがわかりました。(富夫さんは)低血糖になっているので測定できない。たぶん朱美が何らかの形でかかわっているのかと思い、測定器はない方がと思い、ごみとして捨てました。測定器の機械を聖光に見せました。とてもショックを受けていました」
と話した。