八おき塾に通いだして6カ月後、スタッフや仲間たちによる誠さんの卒業式が行われた。父親も参加してくれた。驚いたのは、あいさつの途中で父が涙を流したことだ。

「父は自分に無関心で、自分のことを厄介者と思っているとばかり思っていた。でも本当はすごく心配してくれていたんだな、ということが伝わりました」

 現在、誠さんは週3日間学習塾に通い、高校生たちと一緒に勉強をやり直している。まだ調子が悪いときもあるが、以前と比べて回復してきているのは誰の目にも明らかだ。

 病気になって、友人はいなくなったと思ったが、中学のときの友人たち3人が、ずっと自分のことを気にかけてくれていた。月に1回くらいは「生きてるか~」と連絡をし続けてくれたのだ。

「昔の自分は八方美人で、友達がたくさんいると思っていたけれど、実は本当の友達はいなかったのかもしれません。今は、少ないけれど自分のことを大切に思ってくれている友達がいることがわかって幸せです」(誠さん)。

 ときどき、友達や弟とサッカーをする時間がとても楽しいという。

「以前は、学校に行けなくなる人の気持ちなんて全く理解できなかったけれど、今は弱い人の気持ちもわかるようになりました。あのまま楽しいだけの人生を歩むより、病気になって、失敗してよかったと今は思えます。みんなに遅れを取ってしまったけれど、10年後くらいには追いつきたい。少しずつやれることを増やしていって、『自分、変われたな』と思いたいです」

(取材・文/臼井美伸)

臼井美伸(うすい・みのぶ)/長崎県佐世保市出身。出版社にて生活情報誌の編集を経験したのち、独立。実用書の編集や執筆を手掛けるかたわら、ライフワークとして、家族関係や女性の生き方についての取材を続けている。佐賀県鳥栖市在住。http://40s-style-magazine.com『「大人の引きこもり」見えない子どもと暮らす母親たち』(育鵬社)https://www.amazon.co.jp/dp/4594085687/

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