年が明け、同級生たちが、就職や大学進学など進路を決める時期になった。ある日父親が、誠さんに急に強く迫ってきた。「学校に行けないなら、どこでもいいから就職先を探したらどうだ!」

今まで全く僕に関心がなかったのに、何もしてくれなかったのに、なぜこんなふうに急に言ってくるんだろう。誠さんの心は、父親への腹立ちと恐怖でいっぱいになった。

父親がいる家にはいられない。でもどこに行けばいいのか。

誠さんが頼ったのは、ひきこもりやニートの社会復帰を支援する「八おき塾」の代表、鳥巣正治さんだった。鳥巣さんは自宅に招いてくれて、話をきいてくれた。

「そんなにお父さんが嫌なら、しばらく離れたらいい」と言われ、少し気持ちが楽になった。

 引きこもってから半年。卒業式を間近に控えたある日、元の高校のサッカー部の監督から連絡があった。

「卒業証書は渡せないけれど、一緒に練習した仲間だ。部室でみんなと卒業式をしよう」

 母親が車で送って行ってくれたが、いざ学校が近づき、歩いている同級生たちの姿を目にすると胸が苦しくなり、体が動かなくなった。結局、学校には入ることはできなかった。

「自分はたった9カ月しか通っていないのに、もう高校生活は終わってしまった。そして自分と同じ場所にいたはずの同級生たちが、自分よりずっと大人に見えた。いつの間にかこんなに差が開いてしまったと思うと、ショックで、悔しくて」

 誠さんは車の中で泣きじゃくるばかりで動けない。見かねた母親が鳥巣さんに連絡した。

鳥巣さんは迎えに来てくれて、誠さんの体が動くようになるまで待ってくれた。

「鳥巣さんはしっかり僕に向き合ってくれて、本気で治そうとしてくれている。その気持ちが僕には伝わりました。『もう一度頑張って、みんなに少しでも追いつきたい』と決意したのはそのときです」(誠さん)。

■完璧主義の自分と上手につき合う

そこから、八おき塾に通うようになって、元引きこもりや不登校だった卒業生たちが元気に働いている様子をつぶさに見ることができた。「病気はもう治らないんじゃないか」というあきらめは、消えていた。

そして、自分が抱えている問題が見えるようになってきた。ひとつは、「最初から全力で物事を頑張らないといけない」と考えてしまうことだ。そこで考え方を少し変えて、「少しずつ段階を踏んで努力する」ようにしてみた。

たとえば、学習塾に自分で申し込みをしようと思ったが、人が怖くてなかなか電話ができない。そんなとき、鳥巣さんがこんなアドバイスをくれた。まず一日目は、塾のことを調べる。次の日は、電話で話す内容を紙に書く。その次の日は、その電話番号を押してみる。そして次の日は、発信ボタンを押して電話をかけてみる。毎日一歩ずつ進んでいき、そのたびに「できた」ことを喜びなさいというのだ。

以前の自分は、何かをクリアしても、「ここがよくなかった」という課題をつねに探し、次に何をやるべきかすぐに考えていた。「できた」ことをひとつひとつ喜ぶというのは初めての経験だった。

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実は本当の友だちはいなかったのかもしれません