そのため、抗がん剤などの薬物療法でがんの進行を抑え、緩和ケアでつらい症状を和らげるなど、「良い状態で長生きするための治療」がおこなわれる。がんがあること自体は受け止めた上で、医療を活用しながらがんと上手につきあっていくという戦略だ。
患者にとって「治らない」という事実は重く、絶望してしまう人もいる。しかし、糖尿病のように根治が難しい病気と上手に共存している人は少なくない。高野医師はこう話す。
「からだの中にがんがあるかどうかよりも、良い状態で長生きすることのほうが重要です。がんを消すことを目標にするのではなく、天寿を全うすることを目標に考え、自分らしく生きていくのが良いと思います」
転移すると、「死」を意識する人も少なくない。転移が進行していくと、臓器機能が低下したり、全身状態が悪化したり、合併症を起こしたりして、亡くなることになる。井上医師は言う。
「いずれ終末期が来ても、苦痛を和らげる医療があるので、強い苦しみの中で亡くなることはありません。命が限られる可能性が高くなったことは変えられませんが、『そうなってもいろいろなサポートがあるから大丈夫』と安心して過ごしていただければと思います」
(文・熊谷わこ)
※週刊朝日2022年11月18日号より