北原みのり(きたはら・みのり)/1970年生まれ。女性のためのセクシュアルグッズショップ「ラブピースクラブ」、シスターフッド出版社「アジュマブックス」の代表
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 ところがリコール運動が激しさを増すにつれ、新井氏の置かれている現状をSNSで見聞きすることが増えてきた。発信者の多くは女性政治家たちだった。性被害の声をあげた女性議員が数の力でリコールに追いやられている現実を、「これは現代の魔女狩りだ」という危機感をもって、女性政治家たちが語っていた。そこで初めてネットで公開されている草津町議会を視聴し、そこで繰り広げられていたことに衝撃を受けたのだった。

 国会は傍聴したことはあっても、自分の住む地域の議会も傍聴したことは、それまで一度もなかったが、そこは国会以上に男しかいない場所であった。職員を含めて男性ばかりの議場で、激しいヤジが飛び、議員らが新井氏を責め立てる議会には衝撃を受けた。事実については誰も判断できる立場ではないはずだが、一方的に新井氏を「うそつき」と決めつけ、議員らが率先してリコール運動をするのかと驚いた。

 そこで知人を通して新井氏に連絡を取り、実際に草津町議会の傍聴をすることにしたのだった。私が傍聴したのは20年の12月1日、リコール直前の議会だった。その様子はこのコラムでも記したが、傍聴席には高齢男性たちが並び、新井氏にむかって「うそつき」「(あんな女とは)犬でもしない」など激しい言葉で罵っていた。それは議会というより、新井氏が裁かれる現場のようだった。

 さらにその10日後の20年12月11日、新井氏が主催者となり、草津町でフラワーデモが開催されて私も参加した。15人ほどの小さな集まりだったが、司法での決着を待たずに新井氏の訴えをうそと断定し、議員自らがリコール運動を率先していることに問題を感じるジャーナリストや性被害当事者、支援者らが集まった。草津町でデモをしたこと自体が風評被害という声もあるが、デモはこの国の人が持つ権利である。また、その際に、「#セカンドレイプの町草津」というプラカードを持っていた人たちもいたが、これは「性被害があった」ことを事実として問題にしたのではなく、性被害を訴えた女性議員に対するリコール運動や議場での激しいヤジに対する抗議であった。

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