国会で、自身の発言を撤回し謝罪する葉梨康弘法相
国会で、自身の発言を撤回し謝罪する葉梨康弘法相
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「法務大臣は死刑のハンコを押す地味な役職」「野党の話は聞かない」――政治家が問題発言を「撤回」するのは、いまや見慣れた光景。政治家は「撤回」と言っておけば許されるとタカをくくっているようにもみえる。そもそも、一度表に出した発言を「撤回」することなどできるのか? 『いつもの言葉を哲学する』(朝日新書)の著者である、哲学者の古田徹也さんに解説してもらった。

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■行為を取り消すことなどできない

ある人が公の場で発言したことに対して、「不適切」とか「差別的」といった批判が方々から向けられ、後日、語った当人が「発言を撤回します」と釈明する――これは、とりわけ「言論の府」たる議会をはじめとする政治の世界でよく見られる光景だ。

しかし、「発言を撤回する」という言葉は奇妙ではないだろうか。「撤回」とは言うまでもなく、「一度出したものを取り下げること。言い出した事柄を後になって引っ込めること」(日本国語大辞典 第二版)を指す。

たとえば、「処分を撤回する」という場合に意味されているのは、誰彼を処分する予定だったが、その予定を取り消す、といったことにほかならない。また、「前言を撤回する」という、以前からある普通の言い回しも、以前言い出した事柄(つまり、将来の構想や自分の考えなどの内容)を撤回するという意味だ。

たとえば、かくかくのことをしますと以前は言ったが、事情が変わったのでその計画は取りやめることにした、とか、しかじかの考えを以前に述べたが、それは誤りだと思い直したので取り下げる、といったことを表明するときに、「前言を撤回する」という言葉が用いられる。

しかし、現在、「発言を撤回します」という釈明がなされる場合にはしばしば、文字通り発言を撤回するということ、すなわち、発した言葉を引っ込めるということが意味されている。まるで、議事録から発言の記録そのものを削除するように、以前自分が発した言葉を後から取り消します、と言っているわけだ。そしてもちろん、そんなことは不可能だ。

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