■「オー、リアルゴジラ」
そんな写真をSNSに次々と掲載すると、フォロワーがぐんぐん増えていった。しかも、その半分は外国人だという。
「『この写真集はどこで買えるんだ』『英語版も出してほしい』とか、毎日のようにメッセージが送られてきます」
なぜ、それほどまでに84年の東京の風景が外国人の心に響くのか?
「世界中にゴジラマニアがいるんですよ。当時公開された映画の舞台なので、『オー、リアルゴジラ』みたいなメッセージがいっぱいくる。みんな、すげえ、すげえって言ってくれるので、調子にのって、同じ場所から同じ角度で、きっちりと写しています。それをスタジオで確認して、ちょっとでもズレていたら撮り直しに行く。もう、楽しくてしょうがないですよ」
ネガに残されたのは約1万カット。ただ、撮影場所が判明しなかったケースもかなりあるという。
「これ、どこだかわかります?」と、善本さんに言われ、画面の隅々まで目を凝らしたが、わからない。
「恵比寿です。昔の写真を持ってぐるぐる歩いたんですけれど、地形がぜんぜん変わってしまって、2年くらい悩みました。でも、街並みは変わったけれど、そこに残された昔の部分を見つけるとすごく感動します。例えば、これとか」
外壁がぼろぼろの旅館と、銀行や喫茶店が入居するビルを写した写真が並んでいる。ところが、「ほら、ここ」。善本さんが指さした看板を見比べると、「旅館 花菱」が「花菱ビル」になっていた。
「自分の写真集なのに見るたびに新鮮です。20代のころ、街を歩いていたときのことが思い出されて楽しい」
■構想40年です
ヨドバシカメラでサイン会を開くと、若い人も写真集を買ってくれた。
「2冊買う人もいた。どうして、って聞いたら、そのころ、東京で働いていた親に写真集を送るそうです。あと84年生まれの人も結構買ってくれます」
写真集が出来上がったとき、森山さんも喜んでくれた。
「ギャラリーをやれって言って、撮影された写真がこのコロナ禍のタイミングで世に出たことがとてもうれしかったみたいです。オビの文章も寄せてくれました」。
ギャラリー櫻組時代、善本さんは自分の作品を世界中の人々に見てもらうことを夢見ていた。
「それが還暦を過ぎて、ようやくスタートできたかな、っていう感じです。『こんなふうに展開しようと思って撮影したんですか』って、聞かれるんですけれど、『いや、まさか』って、ずっと言い続けてきた。でも最近は、『構想40年』と、言っています(笑)」
(アサヒカメラ・米倉昭仁)
【MEMO】善本喜一郎写真展「東京タイムスリップ1984⇔2022」
OM SYSTEM GALLERY(東京・新宿) 12月15日~12月26日
作品解説&トークショー(入場無料、予約不要)
12月18日(日)17:00~18:00
ゲスト:写真家・熊切大輔(新宿生まれ、学校も新宿)
クリスマスイブスペシャルトークショー
12月24日(土)17:00~18:00
ゲスト:玉袋筋太郎(新宿生まれ芸人)