小川:僕はおかずを入れようとかじゃなくて、小説を書くならば全部、全文、主菜の肉にしたい。どのページから読んでも面白い小説が、僕にとって理想なので。リズムとしてのユーモアも、こういう問題を出されたら、こういうこと考えるだろうなという中で出てきたという感じだけで。理想は、全ページ全行、全文字面白い小説ですね。

杉江:それは、ずっとある小説観ですか? どの辺からそう思われるようになりました?

■小説の中で、あくびをしないように…

小川:理論上の話ですけど、(カート・)ヴォネガットって全ページ面白いんです。でも長編として読むと、あんまり綺麗な構造じゃない。話はいい加減だし、とにかく毎ページが面白いことに心血を注いでいる。逆に、読み終わったときに「こういうことだったのか!」って色んな構造が綺麗にカチッとはまって腑に落ちるみたいなタイプの、面白い小説もある。世の中にあるエンタメ小説はそういう作品が多いですが。

 その両方ができたら最強です。全ページ面白い上に無駄がなく、全てがきちんと閉じる。それが常に実現できたら、ここはいま武道館で(笑い)、イベントをやっているかも(笑い)。僕が本を買う時の話ですが、冒頭を読んで買うかどうか迷った時は、ランダムに開いたページを見たりします。そのページが面白いかどうかで、本を買うかを決める。そこに書いてある文字列が単に面白いかどうかっていうのは、僕のなかで本を買う上での重要な指標なんです。イメージとしては、インターネットで生配信をやっていてパッと見に来た瞬間が面白かったら、ずっと見続けるしアーカイブで最初から見直すこともある。でも、その瞬間がつまんなかったら配信は見ない。僕の小説も手に取って適当なページを開いて、そのページが面白くなかったら、申し訳ないな、と。小説の中であくびをしないようにしています。

杉江:「小説中であくびしないように」って、いい表現ですね。例えば書き方として、「スリラー」というジャンルがある。「スリル」だから、後ろから列車が迫ってくるみたいな感覚を読者に味合わせ続けたい。サスペンスは「サスペンド」だから、上になにかぶら下がっているんだけどよくわかんないものがあって、怖い、と読者に思わせたい。これらはつまり「感覚」ですよね。読者をどういう感覚の中に誘うかというのは小説の眼目ですが、そういう観点で書かれることはありますか?

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