ところが、アンカー・高橋俊光が「これで繰り上げにはならない」と安堵した直後、足がもつれた鈴木は中継所の10メートル手前で転倒。最後の気力を振り絞って立ち上がった鈴木だったが、今度は仰向けにひっくり返ってしまった。

 そうこうしているうちに、ピストルを持った係員が繰り上げスタートの用意を始める。誰もが「もうダメだ」とあきらめかけた。

 だが、鈴木が高橋にタスキを渡したのは、繰り上げタイムを2、3秒オーバーしていたと思われるのに、結果的にタスキはつながった。“温情のタスキリレー”をアシストした関係者は「駅伝は人がつくるものなんです」と語った。

 たとえ100分の1秒でもルールはルールと厳密に考える人もいるだろうが、必死でタスキを渡そうとする鈴木の姿を沿道やテレビで見ていた人たちの大半がホッとした気持ちになったのも事実だった。

 今年も思わずほっこりさせられる“人間ドラマ”を見ることができるだろうか。(文・久保田龍雄)

●プロフィール
久保田龍雄/1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。最新刊は電子書籍プロ野球B級ニュース事件簿2021」(野球文明叢書)。

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久保田龍雄

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久保田龍雄/1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。

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