もう名前がイヤ。やめて。怖い。絶対怖い。戦慄も迷宮も怖い。絶対に怖い。

 ですが、入り口では若い方々を中心に長蛇の列。

 その、列に並ぶところに、おそらくスピーカーみたいなものがついていて、不穏な効果音や、いま実際に戦慄迷宮を歩いている(と思われる)お客さんの叫び声が聞こえ(ライブの声か、過去の声か、お客さんではなく創作の声か、その辺りは不明)、とにかく入場する前から容赦なく恐怖を煽ってきます。

 しかし、ここは父の威厳というものがあります。「やめとこう、やっぱり」という本音を必死に飲み込み、ウソ。言った。飲み込めずに言った。妻に。数回言った。懇願した。列に並びながら数回、ウソ。それもウソ。78回くらい言った。妻に。「やめとこう、頼むからやめとこう」って78回くらい懇願した。

 しかし、妻と息子は怖がりつつも、わりと入る気満々。帰る気満々の僕は、泣く泣く巻き添え。

 なんでしょうね。瞬間です。入った瞬間、後悔。地を這うような後悔。怖い。怖すぎる。泣くほど怖い。正確には泣いてた。メンタル的には完全に泣いてた。号泣してた。

 3人1組の我々に渡されたのは、弱い光の懐中電灯、1個のみ。

 最初、僕がその懐中電灯を持ち、先頭を歩いてましたが、4秒ほどで断念。先頭を歩く恐怖に耐えきれず、妻と交代。妻、僕、息子の順で進むことに。

 進む間、お前は黙ると死ぬ病気かってなくらい、僕、ずっと喋ってた。喋ってないと正気を保てないくらい怖かったから。でも、色々な言葉は喋ってない。同じ言葉を延々繰り返し喋ってた。というか、叫んでた。ほぼ泣きながら同じ言葉を繰り返し叫んでた。

「お母さん!早い!お母さん!早い!早いってば!お母さん!早い!早いよ!お母さん!早い!早いってば!」

 あの~、父の威厳、どこに行ったんでしょう。どっか遠出しちゃいましたかね、父の威厳。長期のバカンスにでも出掛けちゃったんでしょうか、父の威厳。

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