パスポートオフィスの長蛇の列。将来への希望は海外しかない、と考える若者が多い
パスポートオフィスの長蛇の列。将来への希望は海外しかない、と考える若者が多い

 1月14日の午後9時ごろ、ミャンマーの最大都市ヤンゴンで日本人駐在員2人が強盗に襲われた。場所は、ヤンゴン駅に近いスーレー・シャングリラ・ホテルの近く。一人が刃物のようなもので刺され、病院に搬送された。民主化を求める国民と、それを弾圧する国軍との間で衝突が続き、治安悪化に拍車をかけているようだ。

【写真】真っ昼間に人がいない……治安悪化を物語る一枚

「犯人は1月4日の恩赦組だな」

 市民の多くはそう思ったという。

 というのも、国軍は4日の独立記念日に7千人規模の恩赦を実行した。そのなかに民主派の政治犯は200人ほど。あとは窃盗犯や覚醒剤などの薬物犯罪者ら。

 ミャンマーの人々は、恩赦後の治安の悪化を何回か経験していたという。

「去年の11月7日にも恩赦があったんですが、その後、知人の雑貨屋や襲われて、食料品が持ち去られたんです。彼らは刑務所から出てもすぐに仕事はないから、犯罪に走るしかないんです」(ヤンゴンに住む35歳の会社員Kさん)

 国軍のクーデター以降、ミャンマーの治安は悪くなる一方だ。国軍が警察を支配下に置き、民主派への弾圧に警察を使う構造になり、警察の治安維持機能は失われてしまったからだ。“無法国家”に近くなってしまっている。

 民主派メディアは1月15日、こんな事件を伝えている。

<ザガイン管区で11歳の少女の遺体が発見された。ゆで卵売りの少女で、乱暴されて殺害されていた。この事件についても警察はまったく動かないことに、住民は怒りをあらわにしている。>

 しかし警察の背後には国軍がいるため、どうすることもできない。

 ミャンマーでは当時もいまも路線バス強盗がしばしば起きている。犯人たちは突然、バスに乗り込み、凶器をちらつかせて乗客から金品を奪う。ヤンゴン市内の衣料品店で働くPさん(21)はこう話す。

「毎朝のバスが怖いです。かといってタクシーは高くてとても乗れません」

 この種の事件に関して、警察は動かないのだが、昨年、ひとつの話がSNSで一気に拡散した。

 強盗が乗っているバスの乗客の若い女性が、バスの窓から3本指を突き出し、近くにいた警官にアピールした。

 これは、国軍に抗議する民主派の人々が、その意志を示すとき、3本指で表現してきた。これに警察が反応し、バスに乗り込み、バス強盗犯はそれを見て逃走したという話だ。

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下川裕治

下川裕治

下川裕治(しもかわ・ゆうじ)/1954年生まれ。アジアや沖縄を中心に著書多数。ネット配信の連載は「クリックディープ旅」(隔週)、「たそがれ色のオデッセイ」(毎週)、「東南アジア全鉄道走破の旅」(隔週)、「タビノート」(毎月)など

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殺害された調査員