人工内耳も術後は聴覚リハビリテーションを経て、徐々に言葉が聞き取れるようになっていきます。

「人工内耳の適応が70dB以上の高度難聴に拡大されたこともあり、加齢性難聴で人工内耳植え込み術を受けるケースも増えています」(角南医師)

■耳鳴り治療のゴールは耳鳴りの苦痛を取り除くこと

 そして、難聴の人の約7割が抱えるのが「耳鳴り」です。耳鳴りとは「実際に音が鳴っていないのに音を感じる現象」ですが、難聴によって、脳が音を認識しようと感度を常に上げすぎていたため、感度の調整がうまくいかなくなってしまったことが原因の一つです。

「『孫のピアノの音は多少うるさくてもとくに気にならないが、近隣から聞こえる知らない人のピアノの音はわずかに漏れ聞こえてくる音でも気になる』という人がいますが、音は不快に思うと、どんどん大きく聞こえてくるもの。耳鳴りの音も同じです」(柘植医師)

 とくに夜間の静寂な環境になるととくに感度が上がり、耳鳴りが気になる人が多くなります。不眠や不安障害などが生じることがあります。夜間の苦痛を和らげる音響療法など「耳鳴再訓練療法(TRT)」をおこないます。

「耳鳴り治療のゴールは耳鳴りを消すことでなく、耳鳴りの苦痛を取り除くこと。夜間の音響療法では、就寝中、足元にスピーカーを置くなどして、川のせせらぎや滝の音などの環境音に包まれるようにし、脳の感度を下げることを目指します」(同)

 昼間も耳鳴りが気になる人には耳鳴りから意識をそらす補聴器を使った治療もあります。補聴器から耳鳴りと似た音や環境音を流すことで脳の感度を下げ、耳鳴りが気にならないようにする治療です。

 耳鳴りについて理解する「教育的カウンセリング」も治療には有効です。耳鳴り症状はイライラや不安などの精神面からの影響も大きいとされています。その不安が解消すれば耳鳴りも気にならなくなることがあるため、漢方薬など不安を和らげる薬が処方されることもあります。

「耳鳴りの原因としてごくまれに聴神経腫瘍の場合もあります。診察の際はMRIなどで一通り検査をしますが、とくに重篤な疾患がないことがわかれば、多くの患者さんは安心して、とくべつな治療を受けなくても耳鳴りがあまり気にならなくなるケースも多いですね」(角南医師)

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補聴器相談医のいる耳鼻咽喉科を受診