年齢を重ねると、ひざや腰が痛むように、耳の機能もまた衰えはじめます。加齢による耳の機能低下で多いのが「加齢性難聴」です。難聴は認知症発症の最大リスク因子でもあります。聞こえにくさを感じたら補聴器相談医のいる耳鼻咽喉科を受診しましょう。早めに補聴器を装用することで、補聴器での聞き取りに慣れやすくなります。本記事は、2023年2月27日発売の『手術数でわかる いい病院2023』で取材した医師の協力のもと作成し、お届けします。

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 加齢による聴力の低下は40代ごろから少しずつ始まり、一般的に高音域から聴力の低下がみられるようになります。60代になると聞こえが悪くなったことを感じる人が急に増えはじめます。60代後半になると3人に1人の聞こえは悪化し、80代では約70%に難聴がみられます。

 加齢性難聴は加齢によって内耳の蝸牛(かぎゅう)にある音を感じる細胞がダメージを受けることが原因の難聴です。有毛細胞は再生せず、根本的な治療法はないため、できるだけ早期から補聴器などを使って聞こえを改善し、言葉を聞き分ける能力を保持することが大切になります。

 耳から入った音を情報処理し、言葉として認識するのは脳の働きです。難聴によって、言葉の聞き取りに脳を使わない期間が長くなると、耳から声が音として聞こえても、それを言葉として認識できず、言葉の聞き分けができなくなってしまいます。

 聞こえの悪さを放置してしまうと、いつしか人の話す内容を聞き取る自信をなくし、外出や人と接する機会が減ってしまったり、社会的孤立を招いたりする恐れもあります。そうしたことからも、補聴器を使って聞こえを補うことはとても大切です。

■聞き取りに不自由を感じたら、早めに受診を

 一般的に、「小さな声が聞きにくい」とされる聴力40dB以上の軽度難聴になると補聴器がすすめられるとされていますが、実際には異なるようです。日本赤十字社愛知医療センター名古屋第一病院耳鼻咽喉科部長の柘植勇人医師はこう話します。

「年齢や聴力レベルにかかわらず、自分の生活環境のなかで聞き取りに不自由を感じ始めたら補聴器を検討してほしいと思います。騒がしい環境下で言葉が聞きづらいと仕事にならない営業などの職種なら早めに補聴器を装用する価値があります」

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認知機能を低下させないためにも放置しないことが大切